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衝撃の演出、グラインドボーンの「ばらの騎士」、そして2本のオペレッタ映像

 大学の授業が始まり、いよいよ忙しくなった。今日は祝日だが、授業あり。このごろ、祝日でも授業がある。これまでに3本ほどオペラとオペレッタの映像をみたので、感想を書く。

 

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「ばらの騎士」 
2014年 グラインドボーン音楽祭 ロンドン・フィル

 何よりもリチャード・ジョーンズの演出に衝撃を受けた。とてもおもしろい。ある意味、目を見開かれた。

ロココ風の「ばらの騎士」ではない。表現主義的というか、あるいはむしろグラン・ギニョール的というべきだろう。グラン・ギニョールというのは、19世紀末から20世紀前半、パリのグラン・ギニョール劇場で演じられた血なまぐさく不気味な見世物をいう。オッフェンバックの「ホフマン物語」がその一つの系譜だといえるだろう。もともとはギニョール(人形芝居)に基づく。

第三幕はまさしく不気味な人形劇の世界が展開される。とりわけマルシャリンがまさしく人形のような扮装と歩き方。脇役の集団も不気味な目つき、服装で雰囲気をかきたてる。背景には崩れ落ちそうな大きな逆三角形が描かれている。壁に新ロココ様式のアレクサンドル・カバネルの「ヴィーナスの誕生」の絵が飾られているが、それも照明によって薄暗くされている。「これはロココ的なオペラではないんですよ」という演出家の主張だろう。

このオペラの第三幕には確かに不気味な見世物小屋の不気味な要素がある。これまでの「ばらの騎士」の多くは官能的で上品で優雅で、まさしくロココ風だったが、考えてみれば、この登場人物たちは心の中にどすぐろい闇を持っている。エロスへの喘ぎ(マルシャリン、オクタヴィアン)、権力の希求(オックス、ファニナル)、闇の世界のゴシップ(ヴァルツァッキ、アンニーナ)。それに、何しろ作曲者は「サロメ」や「エレクトラ」を作曲したシュトラウス。そこにグラン・ギニョール的な要素はたくさんある。この演出はそれを抉り出して見せる。

歌手陣もとてもいい。マルシャリンを歌うケイト・ロイヤルは初めて知る名前だが、きれいな歌と容姿で、グラン・ギニョール的に演じて見事。オクタヴィアンのタラ・エロートは残念ながら男性には見えないが、幼げな雰囲気があっておもしろい。ゾフィーのテオドラ・ゲオルギューも、第三幕では得体のしれない雰囲気があってなかなかに不気味。ただ、オックス男爵を歌うラルス・ヴォルトの歌唱がかなり弱い。

指揮は若き俊英ロビン・ティチアーティ。第一幕、第二幕をみている間、あまりに先鋭的で官能的な遊びのない演奏にかなり違和感を抱いたが、第三幕の演出をみて納得。なるほどこのような不気味さを強調する演出だったら、このような演奏でいいだろう。

私の好きな「ばらの騎士」演出ではないが、これはこれで刺激的で、新たな発見をもたらしてくれる演出ではあった。

 

 

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オペレッタ「ウィーン気質」
2007年 メルビッシュ音楽祭

 

 メルビッシュ音楽祭のライブ映像。「ウィーン気質」はウィーン会議の時代を題材にしたヨハン・シュトラウスのオペレッタ。みるのに苦しさを覚えた。野外オペラなので、顔に張り付けた小型マイクで歌うが、風の音が入ってしまう。風で衣装や髪が動くのも気になる。歌手陣にも私はあまり魅力を感じなかった。ペピを歌うルネ・シュッテングルーバーの声が割れているように思うのだが、これでよいのだろうか。それとも、その日、不調だったのか。

 オペラそのものについても、あまりにセリフが多く、肝心の音楽が少ない。半分以上がセリフなのではないかとさえ思える。セリフをカットすれば、1時間もかからないのではないか。ドイツ語圏の人にとっては、セリフがおもしろいのかもしれない。実際、しばしば笑いが起こっていた。が、日本人としてはつらい。

 オーケストラとルドルフ・ビーブルの指揮については、音楽的な環境のよくない中では、とてもしっかりした演奏だと思う。

 

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オペレッタ「ジプシー男爵」
2000年 メルビッシュ音楽祭

「こうもり」とともにヨハン・シュトラウスの代表作とされるオペレッタ。「ウィーン気質」があまりおもしろくなかったので、あまり期待しないでみはじめたが、とても楽しめた。「ウィーン気質」と比べて演奏の質はこちらのほうがずっと高い。それ以前にオペレッタそのものとして、音楽もストーリーもこちらのほうがやはりずっとおもしろい。

 バリンカイを歌うハリー・ヴァン・デル・プラス、ホモナイ伯爵を歌うペーター・エーデルマン(わが愛する往年の名歌手オットー・エーデルマンの息子!)、カルネロ伯爵を歌うハインツ・ツェドニク(わが愛する往年の名歌手その人!)、ジュパーンを歌うヘルムート・ベルガー=トゥーナ、ツィプラを歌うブリギッテ・ピンターどなどすべての役がまさしく適役。そして、ヒロインであるザッフィを歌うマルティーナ・セラフィンがあまりに美しい。

 ブルゲンラント交響楽団を指揮するルドルフ・ビーブルも実に手際がよく、とてもたのしめる。これも「ウィーン気質」と同じメルビッシュ音楽祭の映像だが、風が強くないので、特に違和感なくみることができた。

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