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映画DVDの感想 「天才スピヴェット」「デリカテッセン」「ロング・エンゲージメント」「ミックマック」「ニュルンベルグ裁判」

 8月中は一度もコンサートに足を運ばなかった。もともとこの時期はコンサートが少ないが、それ以上に、何度か両親の健康上の理由でコンサートに行けないことがあったので、チケットの入手そのものを自粛している(といいつつ、9月ころからはそれなりにチケットを用意している)。

ここ数日は、仕事をしながら、あまり根を詰めずに映画のDVDをみたり、オペラ映像をみたり。ジャン=ピエール・ジュネ監督の映画を中心に数本見たので、感想を書く。

 

「天才スピヴェット」 ジャン=ピエール・ジュネ監督

「アメリ」のジャン=ピエール・ジュネがアメリカで作った映画。劇場でみたいと思っていたが、公開当時、忙しくて時間が取れなかった。DVD発売を知ってすぐに予約したが、やっと少し時間が取れたので、ようやくみられた。3D映画のはずだったが、DVDでは2D。

「アメリ」もそうだったが、ある種の「物語の破壊の物語」。観客が完結した物語世界に没入するのではなく、登場人物が観客に向かって話をしたり、物語から外れたエピソードが入ったり。完結した虚構世界を信じられなくなった現代人のあり方、映画芸術そのものの在り方を問いかけていると思う。

 内容的には、「エデンの東」を下敷きにしている雰囲気。兄弟だけが愛されて自分が愛されない少年が家を離れて都会に移動する。ロードムーヴィー的に話が展開。様々なアメリカ映画へのオマージュがいくつも混じる。そして、実は誰からも理解されない天才少年の見た世界として家族愛の枯渇という普遍的なテーマを描いていく。10歳の天才少年を主人公にしたことで、人々を上目線から皮肉に見る視線が嫌味にならずに描かれて、とても魅力的。大変おもしろかった。が、3Dだと、どこがどうなっていたのだろう?

 

「デリカテッセン」 マルク・キャロ、ジャン=ピエール・ジュネ 共同監督

 1991年の映画。「天才スピヴェット」がとてもおもしろかったので、ちょっとジュネ監督の映画をみたいと思った。

人を食う人々の住むアパートに紛れ込んでしまった芸人(ドミニク・ピロン)が、人食いの首謀者である肉屋の娘(マリー=ロール・ドゥーニャ)と心を通わせるようになって・・・というファンタジー。ファンタジックで不気味な映像、薄汚いとはいいながらも魅力的な小道具、個性的な俳優たち。さすが、「アメリ」の監督だけのことはある。おしゃれでセンスがよく、残酷な題材なのにユーモラス。

 とはいえ、私はほかの映画ほどの魅力は感じなかった。

 

「ロング・エンゲージメント」 ジャン=ピエール・ジュネ監督

ジュネ監督の2003年の映画。

 第一次大戦で自傷行為によって戦闘から逃げようとした5人が死刑判決を受けるが、処刑される代わりに5人はフランス軍とドイツ軍の対峙する戦場に放置される。その一人であるマネク(ギャスパー・ウリエル)の許婚者だったマチルド(オドレイ・トトゥ)は戦後になって、マネクは生きていると確信して探し回る。

 そんな話だが、5人の死刑囚ひとりひとりの複雑な物語が語られ、それぞれに友人がいて恋人や奥さんがいて、戦友たちや顛末の証言者も大勢いて、マチルドの周囲にも何人もの人物が登場。しかも、それがいりくんでいる。このごろフランス映画をみていないせいか、知っている俳優はほんの数人。しかも多くが軍服を着ている! よくできた映画なので、事後的にはストーリーは理解できたが、みている最中は、多くの登場人物に対して「これはいったい誰だ???」「この名前は誰のことだ???」と思い続けていた。DVDだったので、二度目みて、細かいところまで納得(ただ、ベルネーに関する暗号を解く部分はどうもよくわからない)。私は難解な映画を理解することに関しては少し自信があるが、顔の識別については、平均をはるか下回る能力だと思う。参った!! 重要な枠役にジョディ・フォスターが登場したのには驚いた。

 原作はジャプリゾ。私はジャプリゾの本を読んだことはないが、この人の原作の映画はかなり見ている。

 映像美に圧倒された。戦場もリアル。それだけではなく、カメラアングル、風景の色彩など、「アメリ」の監督ならではのセンスの良い美しさ。映画の中にのめりこむのではなく、含み笑いを誘うような小さな遊びがいくつもあるのがいい。マチルドがちょっとしたことで縁起を担いだり、小さなことにこだわったり、郵便配達夫が自転車の止め方にこだわったり。そうしながら、最後にはチャンと感動させてくれる。純愛映画なのだろうが、そこに復讐、嫉妬、友情など大人の心情が入り混じる。実に深い。

 

「ミックマック」 ジャン=ピエール・ジュネ監督

 2009年の映画。最高におもしろかった。私の大好きなタイプの映画。父親を戦地の地雷で亡くし、自分は流れ弾に当たって頭の中に銃弾の残る男(ダニー・ブーン)が愉快な仲間たちと、武器商品をだまして懲らしめる話。仲間たちが協力して悪徳巨大企業をぎゃふんと言わせる話はハリウッド映画にもよくあるが、そこはフランス映画。とぼけた雰囲気でしかもエスプリがいっぱいで知的。

私がとりわけおもしろいと思ったのは、二つの軍事産業の会社を目にして主人公の怒りが高まり、それに合わせてオーケストラの音楽が盛り上がるシーン。すると突然、主人公の背後の道路脇にその曲を演奏しているオーケストラ団員たちが現れ、主人公が頭をたたくと同時に、それが消える。そんな遊びが随所にある。チャップリンやジャン・ルノワールへのオマージュと思われるような部分も。

しかも、映像があまりに美しい。主人公の仲間たちの集まるごみ屋敷のような廃墟も軍需工場も、そして俳優たちの着ている薄汚れた服さえも芸術的。俳優たちも個性的。しかも、ハリウッド映画よりもそれぞれに役に人生的な奥行きが感じられるのが、いかにもフランス映画。もちろん、パリの光景があちこちで見られる。

 

「ニュルンベルグ裁判」 スタンリー・クレイマー監督

 今年の初めころから、東京裁判にかかわるものを中心に戦争ものの映画をかなりみている。小林正樹監督の映画はとてもおもしろかった。ドキュメンタリー映画「ニュルンベルク裁判」もみた。今回、ハリウッド映画の「ニュルンベルグ裁判」。戦後噴出した問題のエッセンスがすべて含まれているのに驚いた。現在の日本の抱える問題の原型がある。ドイツと日本の戦争責任のあり方についてよく問題になるが、それについてもここに提出されている。

 シナリオもさることながら、役者たちの演技力と存在感に驚嘆。裁判長のスペンサー・トレイシー、ヤニング被告のバート・ランカスター、検事のリチャード・ウィドマーク、弁護士のマクシミリアン・シェル、ベルトホルト夫人のマレーネ・ディートリッヒ、イレーネ・ホフマン証人のジュディ・ガーランド、ペーターゼン証人のモンゴメリー・クリフト。ハリウッドの大スターたちの底力を思い知った。伊達にスターだったわけではない。3時間近い大作だが、空いた時間に少しだけみようと思ってみはじめたら、やめられなくなった。

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コメント

樋口 先生、

 初めてコメントさせていただきます。いつも映画やクラシックのコンサートの感想等、楽しく読ませて頂いております。

 「天才スピヴェット」は、私は近くの映画館に観に行きましたが、飛び出し絵本が開く場面などで3Dが活用されていました。他にもいくつか印象的に使われていたと思いますが、すみません私はちょっと覚えておりません。

 「デリカテッセン」は、私にとっては非常に印象深い映画でした。特にスプリングがきしんでその後ひたすらショットが繋がっていく場面が記憶に残っています。そういう意味では、'映画は何を、どうやって表現できるのか'についていつも考えているような、映画学校の学生等に受けがいい映画なのだろうかと勝手に考えています。 

投稿: RIKU1989 | 2015年10月 8日 (木) 09時24分

RIKU1989 様
コメント、ありがとうございます。
確かに、飛び出し絵本の場面が印象的でした。なるほど、あそこが3Dだったのですね。とはいえ、特に3Dだから意味が変わるということもなさそうな気がします。
「デリカテッセン」は、映像美的には確かに凝っていて、とてもおもしろいと思いました。ファンタジーとしてはよくできていますね。ただ、ブラックな部分を描いたためにジュネ監督特有の「遊び」が、少なくとも私の好みの方向で発揮されたなかったように思います。でもきっと、この映画を好まれる方が多いだろうこともよくわかります。

投稿: 樋口裕一 | 2015年10月10日 (土) 07時19分

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