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東京二期会「ダナエの愛」 素晴らしい!

 2015年10月3日、東京文化会館で東京二期会公演「ダナエの愛」をみた。演奏と演出に関しては素晴らしいと思った。

 クレメンス・クラウスの指揮するCDはずっと昔に購入し、何度か聴いた。マッケラス指揮のCDも聴いている。DVDも先日購入して楽しんだ。が、実演は初めて。それもそのはず、今回は日本初演だ。

 歌手陣は全員、大健闘。この難しいオペラを見事に歌いこなしていた。ヨーロッパの舞台でも十分に通用すると思った。本日は、若手中心のキャスト。ユピテルの大沼徹は容姿も見事で堂々たる歌いっぷり。ミダスの菅野敦も、ほんのちょっとだけ声の疲れを感じたが、全体的に見事な歌。ダナエの佐々木典子はまさしく貫禄の歌唱。私の大好きな歌手だ。素晴らしい。そのほか、メルクールの糸賀修平、ポルクスの高田正人、クサンテの佐竹由美も、四人の女性たちも水準を超える歌。二期会のレベルの高さを改めて感じる。

 指揮は準・メルクル、オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団。ほんの少し歌と合わないところを感じたが、実演においてはこのくらいは致し方ないだろう。全体的にはシュトラウスの精妙な音の世界を最高に美しく作りだしてくれた。二期会合唱団も、この難しい合唱を見事に歌っている。

 演出は映画監督の深作健太。第二幕まではかなり常識的と思える演出だった。ところが、第三幕、ガイガーカウンターを持った防御服姿のメルクールが現れる。防御服を脱ぐと、医師の姿。そして、舞台上には廃墟が広がっている。要するに、ここは核戦争で廃墟になった都市で、多くの人が瀕死の状態にあるという設定だろう。拝金主義=高度資本主義社会によって世界は破滅し、拝金主義でなく人間の愛を選んだダナエとミダスは生命をたたえる・・・というメッセージだと思う。なるほど、このように解釈すると、拝金主義の要素の強い第1・2幕とつじつまが合う。現代的な意味も持つ。

 シュトラウスのオペラそのものにも、ユピテルは「リング」のヴォータンめいたところがあり、メルクールにはローゲめいたところがあるが、深作の演出はそれを強調している。ユピテルのいでたちはまさしくヴォータン。「神々の黄昏」の終幕と同じように、人間の愛に期待をしてオペラは終わる。

 とても意欲的な演出。これからが楽しみだ。これからもぜひとも意欲的な演出を見せてほしい。

 私としては、むしろこのオペラにも、形而上学の否定が現れていることを再認識した。私はシュトラウスのオペラの特徴は、それまでの形而上学的な要素を否定し、あえて形而下的にしたことだと考えているが、このオペラはまさしく全能の神であるユピテルでなく人間ミダスを選ぶという人間主義をテーマにしている。

 ただ、みながら思ったのは、やはり台本にはかなり欠点があるということだ。グレゴールの台本に問題があるというのは、オペラ史の常識だが、確かにそれを強く感じる。大まかなストーリーは単純でわかりやすいが、台詞の一つ一つが何を意味するのか、その場面にどのような意味があるのかさっぱりわからない。四人の女性がなぜ登場するのか、ダナエはミダスのどんなところに惹かれたのか、なぜダナエはミダスを愛するのか。そのような根本的なところに疑問を感じる。そうなると、登場人物の歌にどのように感情移入すればよいのかわからない。第三幕は無意味に長いように思えるし、とってつけたような説明も不自然。頭の中に次々と疑問が生じて、せっかくの素晴らしい音楽に浸ることができなかった。

 とはいえ、このようなシュトラウスの珍しいオペラの上演は実にうれしい。私は中学生のころからシュトラウスのオペラが大好きだった。当時、まさか日本にいながらシュトラウスのこのようなオペラが将来みられるようになるとは思ってもいなかった。かくなる上は、ぜひとも「グントラム」「火の欠乏」「平和の日」を上演してほしいものだ。

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コメント

はじめてコメントいたします。
私も同日のプログラムを観ました。
ミダス役が友人でしたのでその関係で。
外科医衣装に???だったのですが
上記の解釈で整理されました。
ありがとうございます。
個人的には傘の演出も失笑でした。
あとオケが始終うるさかったように思いました。
歌手の声量というよりオケ/指揮者にはバランスをとってほしかった。
東フィルはお上手ですがもう少し控えめにしてくれないと
劇場オケとしての資格には疑問符です。

いずれにしてもこういった希少なオペラを意欲的に
とりあげていただけるのはとてもうれしいことですね。

投稿: FS | 2015年10月 5日 (月) 11時00分

FS様
コメント、ありがとうございます。
菅野さんのお友達ですか。よろしくお伝えください。私はもちろん個人的には面識はありませんが。
FSさんが、オケが始終うるさいと思われた気持ちはとても良くわかりますが、私はむしろオーケストラはうまく音量を抑えていたと思います。
私はこのオペラのCD、DVDをあわせて3種類持っていますが、いずれもオーケストラがうるさく鳴りまくります。私のこのオペラの印象は、「最初から最後まで、オケが大きな音で鳴るうるさいオペラ!」です。実は私は、ほかのシュトラウスのオペラほどこのオペラを好きになれないのですが、それはやはり、オケがうるさすぎるということです。
これまで聴いてきたCDに比べると、準・メルクルは音量を抑え、歌手に寄り添うように配慮しているように思いました。
私はFSさんとは逆に、「本来、あれほどうるさくオケの鳴るオペラを、メルクルはさすがうまくコントロールして、静かな部分も作ってくれている!」と思って聴いていたのでした。
が、いずれにしましても、このようなオペラをもっともっと上演してほしいものです。

投稿: 樋口裕一 | 2015年10月 6日 (火) 09時13分

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