圧巻の岡田博美のピアノ版ワーグナー
2015年11月28日、東京文化会館小ホールで岡田博美リサイタルを聴いた。曲目は前半にシューベルトのソナタ第20番D.959、後半にワーグナー(リスト編)の「イゾルデの愛の死」、リスト「孤独の中の神の祝福(詩的で宗教的な調べより)」ワーグナー(リスト編)「タンホイザー」序曲。すさまじいの一言。
このブログにたびたび書いている通り、シューベルトはちょっと苦手な作曲家。しばしばあまりの長さに途方に暮れる。が、岡田さんのシューベルトは、そのようなストレスを感じさせない。ロマンティックすぎない。はじめロマンティックな感興が沸き起こってくるが、それが崩され、もっと根源的な絶望感があふれ出てくる。きわめて現代的な響きがする。繊細で透明で研ぎ澄まされていて、しかもヴィヴィッド。とりわけ第2楽章は感傷的すぎない抒情が圧巻。なるほどこれが岡田さんのとらえるシューベルトなのだろう。
後半はもっとすごかった。「イゾルデの愛の死」と「孤独の中の神の祝福」も素晴らしかったが、やはり私は「タンホイザー」序曲に魂が震えた。ものすごい数の音がうねりながら次から次へと湧き出してくる。すべての音が透明で粒だっていて、まったく破綻がない。ダイナミックでロマンティックで、しかも澄んでいて歪んでいない。私は、どちらかというとフルトヴェングラーの指揮するような歪みのあるワーグナーのほうが好みなのだが、これほど正確で繊細でありながら、まぎれもない奥深く激しいワーグナーが聞こえてくることに驚嘆した。
一昨年の秋、私の指導する多摩大学樋口ゼミの主催により多摩大学内で岡田さんにリサイタルを開いていただいた。私たちの無謀な依頼を快く引き受けてくださり、今回と同じ「タンホイザー」序曲を演奏してくれた。この曲を初めて聴いた私はあまりのすさまじさ位に圧倒されたのだった。その時のことを思い出した。
アンコールはリャードフ「音楽の玉手箱」、ストラヴィンスキー「ドイツ人の行進」、シューベルト「楽興の時」。これらも素晴らしい。聴きなれた「楽興の時」が、まるで別の曲のように聞こえる。珠玉の美しさ。
11月末の暖かい日だった。岡田さんのコンサートの前、音楽友だちと、上野のフランス料理の店「ペペ・ル・モコ」で昼食を取った。上野も乗換駅の新宿も、ものすごい人出だった。昼間は温かいが、朝晩は冬の気配が迫っている。
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