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オペラ映像「ルル」「炎の災い」「ジンプリチウス」「湖上の美人」のことなど

 年末になって少し時間に余裕ができたので、何本かオペラ映像をみた。感想を書く。

 

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ベルク「ルル」 (チェルハ補筆
3幕版)2010年 ザルツブルク音楽祭、フェルゼンライトシューレ

 

 とてもおもしろかった。歌手がそろっている。ルルを歌うパトリシア・プティボンはちょっと線が細いが、これはこれで見事。悪女というよりも、むしろ愛情を知らずに育ったがゆえにコミュニケーション障害を起こし、心の中に深い空虚をたたえた女といった雰囲気。こんな役作りもあるだろう。声も美しくて音程がよく、容姿もルルにふさわしい。ゲシュヴィッツ伯爵令嬢を歌うターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー、画家を歌うパヴォル・ブレスリク、アルヴァのトーマス・ピフカ、ジゴルヒのフランツ・グルントへーバー、猛獣使いなどを歌うトーマス・ヨハネス・マイヤー、そして、侯爵役のハインツ・ツェドニク、いずれも適役。さすがザルツブルク音楽祭だけある。

その中でも、シェーン役のミヒャエル・フォレが圧倒的。多重性のある人間像を描いて見せる。声もいいし、容姿もシェーンにぴったり。存在感が凄まじい。

ウィーン・フィルはもちろん素晴らしい。指揮は、マルク・アルブレヒト。もう少し鋭利でもよいと思うのだが、手堅くまとめた印象。ヴェラ・ネミロヴァの演出も現代的で飽きさせない。特に個性的な解釈はないように思う。

 

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リヒャルト・シュトラウス 「炎の災い」 
2014年 パレルモ、マッシモ劇場

 リヒャルト・シュトラウスの初期のオペラ。「火の欠乏」「火の危機」などとも訳される。CDは聴いたことがあったが、映像は初めて。もちろん実演はまだ見たことがない。初めのうち、オーケストラの貧弱さを感じたが、だんだん調子に乗って、最終的にはまったく貧弱とは思わなくなった。超一流の演奏とはいいがたいが、オペラの真価を知るには十分。指揮のガブリエレ・フェッロもしっかりと音楽を作っている。ディームートを歌うニコラ・ベラー・カルボーネは清楚できれいな容姿と歌声、クンラートのディートリヒ・ヘンシェルは若者を歌うには少々高年齢すぎるが、歌唱は見事。オペラそのものはとてもおもしろい。さすがシュトラウス。「サロメ」の一作前のオペラだが、十分に歌劇場のレパートリーになりうる作品だと思う。

 演出はエンマ・ダンテ。黙役のダンスが大活躍する。オペラそのものが退屈なときにこの種の演出が行われるので、私の好みの演出ではない。が、間違いなく劇的効果を高めてくれる。

 

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ヨハン・シュトラウス
2世 「ジンプリチウス」2000年 チューリッヒ歌劇場

 ヨハン・シュトラウス2世にこんなオペラがあることさえ知らなかったが、ネットを検索中に見つけて購入してみた。とてもおもしろかった。

 オペレッタではなく、正真正銘のオペラ。とはいえ、ストーリーも他愛がないし、音楽もいつものヨハン・シュトラウスであって、特に深刻なわけではない。舞台は17世紀。名家の当主ヴェンデリンは30年戦争中に兄を殺してしまったことがトラウマになって地位を捨て世捨て人になって、息子ジンプリチウスとともに森で暮らしている。そこに兵士がやってきて、ジンプリチウスは戦争に巻き込まれるが、ともあれ最後には恋人を見つけ、行き別れていた兄とも出会い、ヴェンデリンの財産も2人の息子で継ぐことになって、めでたく終わる。

最後、めでたしめでたしの楽しいワルツになるが、その間、歌手たちとダンサーの上に処刑された人間たちの首をつられた死体がいくつもぶらさがっている。おそらく、この時代の背景に戦争で犠牲になった人たちがいることを思い出させようという演出家デイヴィッド・パウントニーの主張なのだろう。

 隠者のもとで自然の中に育ったジンプリチウス(英語で言うsimpleを語源に持つらしい。「単純」ということ)は、ワーグナーのジークフリートを想起せずにはいられない。ただし、ジークフリートと違って、怖がりで意気地なしで平和主義者という設定。ヨハン・シュトラウス(あるいは、演出家?)に、ワーグナーの傲慢で暴力的なジークフリートに異議申し立てる意図があったのかもしれない。

 チューリヒ歌劇場の公演だけあって、歌手たちは最高レベルにそろっている。隠者ヴェンデリンの歌うのはミヒャエル・フォレ。さすがとしか言いようがない。ジンプリチウスのマルティン・ツィセット、ヒルデガルテのエリーザベト・マグヌソン、メルヒオールのオリヴァー・ヴィドマー、いずれもとてもいい。アルニムを歌う歌手が素晴らしいと思ってよく見たら、なんとピョートル・ベチャワだった。うまいわけだ。指揮はフランツ・ヴェルザー=メスト。ヨハン・シュトラウスの音楽がとても高貴で知的になっている。

 

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ロッシーニ 「湖上の美人」
20153月 メトロポリタン歌劇場

 METライブビューイングでみたのと同じ映像。素晴らしかったので、今回、ソフトを購入して見直した。やはり、凄まじい上演。ジョイス・ディドナート、フアン・ディエゴ・フローレス、ダニエラ・バルチェッローナ、ジョン・オズボーンの四人が圧倒的。ミケーレ・マリオッティの指揮もロッシーニにふさわしく、メリハリがあり、生き生きとして躍動している。それにしても、ロッシーニは楽しい。ますます好きになりそう。

大晦日、NHKで紅白歌合戦が放送されている時間帯に、2015年最後のオペラ映像としてこれを見た。昨年までは、「ベートーヴェンは凄い 全交響曲連続演奏」を聴いていたが、今年は残念ながら欠席した。

2015年は義父、実父、叔母、そして我が家の愛犬までも亡くなる散々な年だった。これからの時代の困難を象徴するようなパリのテロも起こった。2016年がよい年であることを祈る。

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