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文芸ドラマのDVD「赤と黒」「チボー家の人々」「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」「現代の英雄」

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 先ごろ、
KADOKAWAから拙著「読んだつもりで終わらせない名著の読み方」を出した。(そろそろ、この本の講義DVDTSUTAYAでレンタル開始になる。自分では絶対見たくない映像!)。その執筆の際、必要があってロシアのテレビ・ドラマ「罪と罰」のDVDを見てみた。それまで、実は文芸作品の映像化にはあまり強い関心を持ってはいなかった。どうしても映像作成者の解釈が入るので、原作とは異なったものになる。あまりみたくないと思っていた。ところが、「罪と罰」をみて驚嘆。きわめて原作に忠実。しかも、19世紀ロシアの市場の雰囲気、ペテルブルクの街角など、現代の日本人には想像の及ばないものだった。

 そんなわけで、この際、文芸ドラマを見てみようと思って、まとまった数のDVDを買い集めた。少し時間ができたので、何本かみた。感想を書く。

 

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「赤と黒」
1997年 フランス、イタリア、ドイツ合作。ジャン=ダニエル・ヴェラーゲ監督

 スタンダール原作の「赤と黒」をドラマ化したもの。DVD2枚組。「赤と黒」は中学生のころと大学生のころに読んだきり。当時はとても感動した。ジュリアン・ソレルに憧れた。ジェラール・フィリップ主演の映画もみた。今回みたものは、それよりももっと原作に忠実。1830年の7月革命前のフランスの状況もよくわかる。映像も美しい。

 主演のキム・ロッシ・スチュアートを見ていると、なるほどジュリアン・ソレルはこんな容姿のこんな雰囲気の男だったのだろうと納得させられる。レナール夫人のキャロル・ブーケもぴったり。実に清楚で美しい。マティルドのジュディット・ゴドレーシュは顔の造作は私のイメージとは異なったが、演技については文句なし。後半、夢中になってみた。ただ、昔、若いころにスタンダールの原作を読んだときには完璧に納得した記憶があるが、こうして映像を見ると、レナール夫人を狙撃した後のジュリアンの心の変化に十分に納得できない。また原作を読み返したくなった。

 

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「チボー家の人々」 
2003年 ジャン=ダニエル・ヴェラーゲ監督

 マルタン=デュ=ガールの小説のドラマ化。DVD4枚組。原作の翻訳は20代のころ読んだ。とてもおもしろい小説だと思ったが、特に人生上の影響を受けたわけではなかった。その後、一度も読んでいないので、細かいところはまったく覚えていない。だから、原作との違いなどについてまったく何も言えない。ただ、客観的で冷静な筆致で情熱的な心を描くマルタン=デュ=ガールの特質を、この映像は十分に伝えていると思った。

 昔読んだときには情熱的な反戦主義者ジャックに共感したが、今みると、やはりジャックの理想主義はあまりに甘い。ただ、その甘さをマルタン=デュ=ガールは意識的に描いているだろうと気づく。一次大戦前のフランスの状況が映像化されているので、そのころの風俗や政治状況がよくわかる。

 この小説は二度と読み返さないだろうと思ってドラマを見始めたが、あれこれと原作がどうなっているのか気になる。

 父親役のジャン・ヤンネ, ジャック役のマルク・デディ、アントワーヌ役のジャン=ピエール・ロリはとてもいい(アントワーヌにしてはちょっと老けすぎているような気がする)。ただ、もしかすると私の個人的な趣味の問題かもしれないが、女優陣にはあまり魅力を感じなかった。

 

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「戦争と平和」2007年 イタリア・ロシア・ドイツ・フランス・ポーランド合作 ロバート・ドーンヘルム監督

 ヨーロッパ諸国で作られたテレビドラマ。もちろんトルストイの原作に基づく。DVD5枚組。監督はロバート・ドーンヘルム。 

 私が「戦争と平和」を全編通して読んだのは中学生のころ一度だけ。それ以来、部分的に読んだり飛ばし読みをしたりはしたが、全編読み返したことはない。オードリー・ヘプバーンの出演するハリウッド映画(トルストイの跡形もないような映画だった)、ボンダルチュク監督のソ連映画(これはトルストイの見事な映画化だと思った)、そしてプロコフィエフのオペラは何度か見ている。おそらく二度とトルストイの小説「戦争と平和」を読むことはあるまいと思って、ともあれドラマを見ることにした。

 深く感動するわけではないが、原作を思い出しながら十分に感情移入して退屈せずに最後までみることができた。とてもよくできたドラマだと思う。私の覚えている限り、かなり原作に忠実。登場人物は、全体的に原作のイメージに近い。ナターシャ(クレマンス・ポエジー)もアンドレイ(アレッシオ・ボーニ)もボルコンスキー侯爵(マルコム・マクダウェル)も、それ以外のほとんどの役が小説から出てきたかのよう。ただ肝心のピエール(アレクサンダー・バイヤー)は少し「イケメン」すぎる。

 とはいえ、全体的には本当に見事に当時のロシアが再現されている。かつてのソ連映画に比べると戦場シーンなどは少々地味だが、それでも貴族の館、舞踏会、戦場、帝政ロシアの街並みなども見事に映像化し、ストーリーや人間関係をうまく整理している。原作の味わいを思い出すことができた。

 

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「アンナ・カレーニナ」 1977年 イギリス 
BBC バジル・コールマン監督

 映像の宿命というべきか、主要な登場人物は容貌的にも魅力的でなければならない。そうでないと、感情移入できなくなってしまう。このわかりきったことを、改めて感じさせられた。

アンナ役のニコラ・パジェットはとても美しく、愛に苦しむ女性を見事に演じているが、ヴロンスキー役のスチュアート・ウィルソンが私には魅力的には見えない。もしかすると、このような顔の作りと雰囲気が原作の時代の美男なのかもしれないが、現代の私にはむしろ嫌味な男に見える。そうなると、この不快な男を愛するアンナの気持ちがわからない。必然的にドラマにも共感できない。カレーニンのほうがまだしも魅力的に映る。アンナの愛に説得力を感じないので、世間から孤立してまで自分の愛を貫こうとする様子が愚かに見えてしまう。アンナと対比的に描かれるリョーヴィンのイメージも私が抱いていたものとはずいぶん異なる。結局、私は登場人物の誰にも感情移入できなかった。異化効果を狙ったドラマでない限り、これでは面白いと感じない。DVD2枚だが、時間にすると、365分。退屈を禁じえず、途中から再生速度を上げた。

あまり起伏はないし、いかにもテレビドラマであって壮大なスケールにならないが、淡々と小説世界を描いて盛り上げていくところは見事。監督のバジル・コールマンの手腕を感じる。しかし、「映像はキャスティングが大事」というきわめてプリミティブな感想を抱いた。

 トルストイの「アンナ・カレーニナ」は高校のころに一度読んだだけ。実はあまり好きな小説ではない。このところ、何本か文芸作品の映像をみて、「原作を読み返したい」という気になったが、この作品についてはあまりそのような気持ちにならなかった。

 

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「現代の英雄」
2006年 ロシア アレクサンドル・コット監督

 とてもおもしろかった。時間軸の錯綜した原作を手際よく整理し、人生に退屈し、心の空虚を満たすために無鉄砲で破滅的な行動をとるペチョーリンを生き生きと描いている。ペチョーリンはプーシキンのオネーギン以上に鼻持ちならない人物なのだが、とても魅力的。その苦悩も伝わってくる。19世紀のロシア文学の一つの典型を現代によみがえらせている。DVD3枚組だが、まったく退屈することはなかった。

 イーゴリ・ペトレンコが実にいい。容姿もペチョーリンにぴったり。なるほど、こんな男なら女たちが寄ってくるだろうし、自分や他者の命にこだわらずに決闘を繰り返すだろう。ヴェーラ役のエルヴィラ・ボルゴワ、メリー役のエフゲニア・ローザは私には絶世の美女に思える。

 この映像もまた、原作を読んだだけでは日本人にはまったく想像できないロシアの辺境地域(カフカス)を見せてくれる。実は私がこの原作を読んだのは大学院生のころだったが、このような風景を想像していなかったように思う。その意味でもありがたい映像ともいえそう。

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