三枝成彰「Jr.バタフライ」 あまりに魅力的な三枝ワールド
2016年1月27日、渋谷のオーチャードホールで三枝成彰作曲のオペラ「Jr.バタフライ」をみた。オリジナルは島田雅彦による日本語台本だが、このオペラがイタリアのプッチーニ音楽祭でイタリア語版で上演され、大成功を収めた。今回はいわばその凱旋公演とでもいうべきもの。三枝ファンである私としては見ないわけにはいかない。
歌手たちのレベルの高さに驚く。Jr.バタフライを歌うのがジャン・ルカ・パゾリーニ(かつて私が心酔した映画監督ピエル・パオロ・パゾリーニと何か関係があるのだろうか?)、ナオミを歌うロッサーナ・カルディアが特に素晴らしい。そのほかのイタリア人歌手たちもやはり日本人とはレベルが違う。指揮は三ツ橋敬子。スケールの大きな演奏で、三枝ワールドをあまりなく再現している。布施実の演出については、とても美しい映像だったが、少し単調だったのは否めない。とはいえ、きっと資金的な制約があったためだろう。もっと手の込んだ装置を使うと、上演が不可能になるのだろうから、日本の現代オペラを上演できただけでも快挙というべきだろう。
三枝さんの音楽については、見事というほかない。プッチーニを意識し、時には「トリスタンとイゾルデ」を意識し、難解な芸術ではなく、だれにでもわかりやすく親しみやすいオペラをめざす。私はこの姿勢に大賛成。愛に陶酔させ、戦争の悲劇に泣かせ、政治と愛について考えさせる。
イタリア語にまったく違和感はなかった。いや、それどころか日本語で聴いたときよりもずっと感動した。日本語の歌はどうしても平ぺったくなって、情緒的になる。イタリア語だとアクセントが生まれ、躍動する。情緒が緩和される。最後の平和への祈りを歌う合唱(日本語で歌われる)があまりに感動的。ここは絶対に日本語のほうがよいと思った。
マダム・バタフライの息子という設定が秀逸。こうすることで日米のはざまを描くことができる。同時に、プッチーニの「真似」(という言葉をあえて使わせていただく)を堂々とすることができ、観客をなじみの世界に導くことができる。しかも、オペラという日本にはどうしてもなじみのない芸術形式をなじませることができる。ジュニア・バタフライという主人公が過去と現在、そして西洋と日本に結び付ける「装置」の役割を果たしている。
ただ、島田雅彦の台本については少し欲張りすぎているのではないかと思った。私の読解能力不足なのかもしれないが、終盤、テーマについていけなかった。一度、台本をしっかり読み込んでみたい。
観客の中に政界、財界、言論界、芸能界のビッグネームが大勢おられるのに驚いた。失礼ながらお名前を思い出さないもののテレビでよく見かける方も多かった。何人かにご挨拶をと思わないでもなかったが、気後れして早々に退散した。三枝さんの社会への影響力の大きさを改めて痛感した。
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