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マフマルバフ監督「独裁者と小さな孫」 絶妙な距離感

モフセン・マフマルバフ監督の映画「独裁者と小さな孫」(ジョージア・フランス・イギリス・ドイツ合作)をみた。とてもおもしろかった。

残酷で横暴な独裁者(ミシャ・ゴミアシュビリ)が支配する国で革命が起こる。独裁者は変装してわがままな孫(ダチ・オルウェラシュビリ)とともに政府軍と革命軍が戦っているさなかを逃げ惑うことになる。そうするうちに、いかに自分が国民をひどい目にあわせていたのかに気付く。だが、あと一歩というところで正体が暴かれ、孫は助けられたものの、独裁者は殺されようとする。そこで映画は終わる。

敵地を逃げ惑いながら体験する様々な出来事、その人間模様が描かれる。いわゆるロードムービー。革命の混乱期という設定だけに、主人公だけでなく、出会う人間たち全員が切羽詰まった状況にいる。必然的にストーリー的にもサスペンスにあふれ、人間性の暴かれる状況になる。婚礼の日、新郎や家族の前で連れ去られ、兵士に強姦された後、助けてくれなかった家族をなじってついに殺される女、独裁者とかつてかかわりを持った売春婦、政治犯として牢獄で5年間過ごしたあと、必死の思いで妻のもとに帰って、妻がほかの男の子どもを作っているのを知って自殺する男(そのやり取りが、男の顔の表情と声だけで表現される)など、それぞれのエピソードが鮮烈。

マクマルバフの旧作「カンダハール」を思い出す。これはタリバーンの支配するアフガン地域を女性が一人で妹を探しに行く物語だった。今作は、主人公が決して善人ではなく、物語の中でもかなり悪辣なことをするうえ、最後まで心から改心しているわけではないこと、そして、わがままで嫌味な、しかしなかなかに可愛いげのある孫を連れている点で、いっそう手が込んでいる。

つまり、観客は二人の主人公に心の底から感情移入できるわけではない。独裁者の強権ぶりを見せつけられているので、最後に虐殺されてもやむを得ないと思う。孫のほうも、かなりわがままなので、観客の多くがこの孫も少々痛い目に合うべきだと思ってみるだろう。マフマルバフ監督は安易に感情移入させることを拒んで、むしろ皮肉に描いていく。観客と二人の主人公の距離感の作り方が絶妙。それだけにいっそう現実社会の複雑さ、難しさを感じる。イラクやリビアできっとこのようなことが起こったのだろうと想像できる。

映像は実にリアル。荒野での兵士たちの動きなどは、現実そのものに思えるほど。しかも映像が美しい。ジョージア(かつての呼び方では、グルジア)で撮影されたのだろうか。私はずっと引きこまれてみた。モフセン・マフマルバフの映画は「カンダハール」と「パンと植木鉢」「セックスと哲学」をみたが、いずれもおもしろかった。が、私としては今作が一番気にいった。

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