映画「アンナ・カレーニナ」「日の名残り」「わたしを離さないで」、そしてテレビドラマのこと
昨日、少し仕事の切りがついたので、本日は少しゆっくりした。何本か映画ソフトを見たので感想を書く。
先ごろ見た英国BBCのドラマ「アンナ・カレーニナ」に不満を覚えたので、アマゾンで評価の高いこの映画DVDを購入した。これは素晴らしい。
BBCのドラマよりもずっと短い。実際の物語が展開されるのはせいぜい1時間40分ほど。だが、むしろBBCのものよりもこちらのほうに説得力を感じる。小説の中のエピソードをとびとびに映像化しているわけだが、それぞれの映像が雄弁なので、映像化されなかった時間の登場人物たちの心情の深まりが深く理解できるように作られている。
アンナ(ソフィー・マルソー)とヴロンスキー(ショーン・ビーン)の狂ったような恋心、カレーニン(ジェームズ・フォックス)の苦しみがしっかりと伝わってくる。ロシアの自然、モスクワやペテルブルグの貴族の館なども単に背景としてではなく、ドラマそのものとして描かれている。レヴィン(アルフレッド・モリーナ)とキティ(ミア・カーシュナー)も存在感がある。情緒をかきたてるチャイコフスキーの「悲愴」も実に効果的。
登場人物の誰もが、エゴにかられながらも、自分なりに他者を思いやり、それぞれの立場で必死に生きている。それが画面から伝わる。トルストイ特有の宗教観、大地への思いもしっかりと語られる。
とはいえ、せめて2時間くらいかけてもよかったのではとは思わないでもない。
カズオ・イシグロの「日の名残り」は、話題になったころに翻訳を読んで、とても良い小説だと思った。抑制的でしみじみとしていて、しかも小説の仕掛けが実におもしろい。つい先日、なんとイシグロの「わたしを離さないで」がテレビドラマになると聞いて、そういえば、映画「わたしを離さないで」も、それどころか「日の名残り」も見ていないことを思い出して、このたび、見てみることにした。
監督はジェームズ・アイヴォリー。多少の改変はあるが、とてもうまく原作を映像化している。アンソニー・ホプキンスが素晴らしい。確かに原作の語り手=執事はこの通りのイメージだった。イシグロの小説の大きな特徴は、語り手が本音を語らないということだと思うが、本音を表に出さない執事がうまく表現されている。映像もとても美しい。ミス・ケントンのエマ・トンプソンもみごと。しみじみとした感慨にふけりたくなる映画。映画を見た後、文庫版を購入して「日の名残り」を読み返してみたが、改めて映画化に感心した。
実は原作も読んだことがなかったので、これを機会に、イシグロのほかの数冊とともに読んでみた(といっても、土屋政雄訳・ハヤカワepi文庫)。原作を読んだ時点では、読者が語りの中の引っかかる言葉を手がかりにして、少しずつ驚くべき状況を探り当てていくというこの小説の醍醐味を映画化するのは無理なのではないかと思ったが、映画を見て、とてもうまく処理していることに驚いた。とはいえ、やはり映像化すると、具体的に示さざるを得ないので、初めから種明かしがされてしまうことになってしまう。やむをえないことだろう。
キャシーを演じるキャリー・マリガン、ルースを演じるキーラ・ナイトレイ、そして、トミーのアンドリュー・ガーフィールドがとてもいい。校長はシャーロット・ランプリング。
ただ、このように映像化されると、「この子たちは、なぜ役割を放棄して逃げ出さないんだろう」「なぜ自暴自棄にならないんだろう」「なぜオリジナルをやっつけようと思わないんだろう」などの疑問がわいてくる。小説ではそのような疑問はわかなかったのだが。小説では、読者にそうした疑問を抱かせないように不思議な雰囲気をかきたてようとしているのだが、私のような雰囲気にのまれないタイプの人間は最後まで納得できなかった。
ところで、日本で始まったテレビドラマ「わたしを離さないで」もみた。まだ2回目を終えたところだが、その感想も付け加える。
イシグロの原作とかなり異なる。主人公(綾瀬はるか)とその女友達(水川あさみ)との葛藤はかなり拡大されているし、校長(麻生祐未)が生徒たちに語る内容も原作にはない。だが、その改変の手際の良さに私はとても感心した。
日本の舞台を移している時点で、原作に忠実にドラマ化するのは難しい。また、この小説は、映像にすると必然的に「ネタバレ」になってしまうという宿命を背負っている。したがって、原作を改変するのは、ある意味で当然だ。日本人が原作を読んで納得できないことを、日本人でも納得がゆくようにうまく改変している。そして、なるほどそのように改変しても、それなりに辻褄も合うし、そもそも原作の意図もそこにあったのかもしれないと思わせるだけの説得力がある。かなり上質のドラマ化だと思う。この後を期待する。
私はテレビドラマを続けてみることはめったにないのだが、これは最後まで見ようかと思っている。
テレビドラマについて触れたついでに、私が唯一、ずっと見続けているドラマ「相棒」について感想を語る。
実は最近の「相棒」のシナリオの不自然さを大変残念に思っている。反町隆史が相棒になった14回目のシリーズ、私はそれなりに期待していたのだが、役者としての反町のよさも生かせず、そもそも反町演じる冠城の存在意味もあまりなく、犯罪動機も物語の展開も結末もほとんど毎回あまりに不自然。登場人物たちのキャラクターも揺れている。「ああ。今回もつまらなかった」と思う回が続いている。長期間放送するうちにネタが尽きたということなのだろうか。
このドラマは、テレビをあまり見ない私が「毎回予約」をしている唯一の番組なのだが、新しい回を見るごとに、次回は毎回予約の設定を解除しようかという思いにかられる。
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