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「ランジェ公爵夫人」「カオス・シチリア物語」「ベラミ」「巨匠とマルガリータ」のこと

 実はめっぽう忙しい。23日は市ヶ谷アルカディアで「クリティカル・シンキング」のセミナーが開かれ、私はその重要性、大学入試との関係性について基調講演をした(とても気持ちよく話ができた)。24日は多摩大学で7時間にわたる会議。25日は佐賀県の東明館中学・高等学校で講演(ここでもとても気持ちよく話ができた。素晴らしい学校だった!)。その日のうちに東京に戻り、26日は多摩大学で特別オープンキャンパス、27日は多摩大学で教授会と研究会。明日28日も、明後日29日も多摩大学でイベントがあり、3月1日はまたクリティカル・シンキングにセミナーを行う。

 しばらく前から文芸映画DVDを見ていたので、感想を書く。

 

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「ランジェ公爵夫人」

 ジャック・リヴェット監督がバルザックの原作を映画化したものだが、映画の原題は「斧に触るな」。最近日本で使われている言葉で言うと、「導火線を踏むな」(相手の肝心なところに触れると怖い)というような意味だろう。映画の中で、モンリヴォー将軍(ギヨーム・ドパルデュー)がランジェ公爵夫人(ジャンヌ・バリバール)への反撃に出ることを決意した時に語る言葉だ。

実は原作を読んだことがない。バルザックは10冊程度は読んでいるが、この小説は未読。映画について言うと、実は少々退屈だった。雰囲気はあるし、映像は美しい。だが、前半のランジェ公爵夫人がモンリヴォー将軍を手玉に取ってあしらう部分が長すぎて、いかにも静的になってしまっている。それに、きわめて個人的な好みの問題かもしれないが、私にはランジェ公爵夫人を演じるバリバールがそれほど魅力的には思えない。だからこの女性に夢中になる気持ちに感情移入できない。

リヴェットの映画は以前「美しき諍い女」(そういえば、これもバルザック原作だった)を見たが、私は人が言うほど素晴らしいとは思わなかった(といいつつ、DVDでもう一度見てみようかという気になった)。私はリヴェットのよき理解者ではなさそう。ミシェル・ピコリが出演。大好きな俳優さんだった。懐かしい。実は、ギヨーム・ドパルデューの映画を初めてみた。父親のジェラールは好きではなかったが、ギヨームは実にいい。若くして亡くなったのが実に残念。

 

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「カオス・シチリア物語」 パオロ・タヴィアーニ
+ヴィットリオ・タヴィアーニ

 とても魅力的な映画だと思った。ピランデッロの短編による四つの物語とエピローグから成るオムニバス映画。日本ではあまり読まれていないが、ピランデッロは私の大好きなイタリア作家だ(ただ、短編も悪くないが、本当に好きなのは長編や劇作だ)。この原作を含む短編集は、タヴィアーニ兄弟が監督した映画の日本での上映に合わせて刊行された時に読んだ。当時、時間がなくて映画は見なかった。

タヴィアーニ兄弟の映像美の結晶のような映画なのでやむを得ないとは思うが、本を読みながらこのような圧倒的な光景は想像していなかった。自然の中で生きる貧しい人々の生のあり方が描き出される。そうだったんだ、ここに登場する人物はこのような薄汚い服装をしていたんだと、改めて思い至った。圧倒的な存在感。ピランデッロよりもタヴィアーニ兄弟の映像の力に屈服した。

エピローグの中のピランデッロらしい人物(ピランデッロにそっくり!)は、久しぶりに故郷に帰り、母の亡霊を前にして「僕はお母さんが死んでもずっと思い続ける。だが、母さんが死ぬと母さんはもう僕のことを考えてくれない。遠くで母さんが思ってくれているから生きてこれた」と語る。昨年、父を亡くし、母もかなり弱っている現在、この言葉は私の心にしみる。

エピローグで聞き覚えのあるメロディが流れる。映画を見終わった後も何の曲だったか思い出せなかったが、ベッドに入って思い出した。「フィガロの結婚」の第四幕の場のバルバリーナの歌うアリア。暗闇の中、ピンを探しながら、「なくしてしまった」と歌う。

「なくしてしまった」・・・。この感覚をこれから何度も味わわなくてはならないのだろう。

 もっとピランデッロの翻訳を出してほしいものだ。以前、フランス語訳で読もうと思って全集を購入したが、今の私のフランス語の力ではとうてい読み通せない。

 

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「ベラミ」デクラン・ドネラン
, ニック・オーメロッド監督

 モーパッサン原作。中高校生のころ、モーパッサンが大好きだった。短編一作だけ読み終わったら勉強しよう・・・と思っては、「あと一作読んだら・・・」と思いなおし、それを続けて、「ああ、今日もまったく勉強しないまま夜中になってしまった・・・」と暗澹たる思いに陥りながら眠りにつく・・・いうようなことがしばしばあった。

それにしても、その後、日本ではモーパッサンはまったく読まれなくなった。私自身も読まなくなった。世界の名著を知ると、やはりモーパッサンの底の浅さを感じざるを得ない。

 この映画もそれなりにはおもしろかったが、やはり結局は貧しさの中で自分の美貌を武器にして生きた男の物語でしかない。19世紀末のパリの様子がよくわかる。ロートレックやドゥガの絵のような酒場の雰囲気がとてもいい。

ジョルジュを演じるのはロバート・パティンソン。ちょっと嫌味すぎる。マドレーヌのユマ・サーマンがあまりに美しい。クロチルドのクリスティーナ・リッチも魅力的。タイトルがBel Amiであり、舞台がパリなのにみんなが英語でしゃべるのに大いに違和感を覚えた。

 

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「巨匠とマルガリータ」 2005年 ウラジーミル・ボルトコ監督

 ロシアで作られた全10回のドラマ。ミハイル・ブルガーコフ原作。私は、1970年代に「悪魔とマルガリータ」という邦題でこの小説を読んだ。当時、とても興味を惹かれて読んだが、読んだ後「よくわからん」と思った。あれから45年ほどたち、その後、知識や経験を増やしてきたので今ドラマとして見れば十分に理解できるだろうと思ったが、やはり同じように「よくわからん」と思った。ただ、唯物論を否定し、物質文明をからかい、官僚主義を皮肉り、聖なるもの邪悪なるものが蠢くエネルギーにあふれる世界を描こうとしているのはわかるが、イエス・キリストやピラトをどうとらえているのか、「ファウスト」などとどうかかわっているのか判然としない。ブルガーコフの原作も同じような印象を受けたので、原作通りなのだろう。とはいえ、一度見る価値のあるドラマだと思う。ともあれ面白かった。

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