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ヤナーチェクの晩年を描く映画「白いたてがみのライオン」 生を求めるヤナーチェク!

 201622日、新国立劇場中劇場で作曲家ヤナーチェクの晩年を描く映画「白いたてがみのライオン」(ヤロミル・イレッシュ監督1986年チェコ)をみた。ヤナーチェクの代表作「イェヌーファ」が新国立劇場で上演されるのに先立つイベントの一つだろう。私は日本ヤナーチェク友の会の会員(そういえば、しばらく会費を払っていないが、まだ会員なのだろうか?)なので、会からのメルマガでこの映画会のことを知った。本日の昼と夜の二回だけの上映で、なんと無料! 申し込みをする必要もないとのことで、平日の昼間ならきっとガラガラだろうと思って行ってみたら、8割がた席が埋まっていた。

 娘オルガの死や「イェヌーファ」の完成のころから、そのプラハでの成功、38歳年下の人妻カミラとの恋、女好きでわがままなヤナーチェクに振り回される妻ズデンカの苦しみなどが描かれる。私の知る限り、かなりヤナーチェクの実人生を忠実に描いている。

ヤナーチェクもカミラもドヴォルザークも写真で見る顔にとても良く似ている。きっとヤナーチェクとカミラの関係はこんな感じだったのだろう。ただ、ヤナーチェク夫妻の関係は実際にはもっと冷え込んでいたのだと思う。

私は、20071月、ヤナーチェクの生まれ故郷であるチェコのフクバルディ(人里離れた寒村だった)、そして、ヤナーチェクが暮らしていたブルノを訪れた。ヤナーチェク博物館もみた。映画に描かれていたのがフクバルディかどうかはわからなかった。

 ヤナーチェクがカミラに惹かれるのは、その生命力だった。ヤナーチェクは死を憎み、生を追い求めた。生はまた性でもある。たびたび描かれる屹立する樹木が生命と性衝動を象徴している。それが映画全体を貫くテーマとして示される。

映画の中では「イェヌーファ」「内緒の手紙」「カーチャ・カバノヴァ」「消えた男の日記」「グラゴール・ミサ」などが演奏された。そういえば、このところロッシーニに夢中で、ヤナーチェクのCDをしばらく聴いていない。DVDも見ていない。これを機会に見直してみようと思った。

 一つ気になったのは、「内緒の手紙」のリハーサルの場面で、ヤナーチェクがヴィオラ・ダモーレにこだわるところで、字幕が単に「ビオラ」となっていた。これでは意味が通じない。このような部分があると、ほかにもこのようなミスがあるのではないかと心配になってくる。

 ともあれとてもおもしろかった。それは私がヤナーチェクを偏愛しているからだけではないだろう。

 

 ところで、前にも書いた通り、しばらく前から「文芸映画」のDVDを見ている。何本か見たので、簡単に感想を記す。

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「ゴリオ爺さん」 ジャン
=ダニエル・ヴェラーゲ監督 2004

 もちろんバルザック原作のテレビ映画化。ジャン・クロード=カリエールの脚本。

 正直言って期待外れだった。当時のパリの様子を再現してくれたのはうれしいが、ヴォケー館に暮らす人たちが、あまりにふつうの小市民的な人たち。この人たちが過去の犯罪にかかわりがあったり、貴族と関係を持ったりするとは到底思えない。バルザックの登場人物たちの持つ得体のしれないエネルギーが少しも伝わらない。

 そもそもゴリオ爺さんを演じるシャルル・アズナブールが善良で気弱すぎる。娘たちに手玉に取られるとはいえ、もっとひねくれた一筋縄ではいかない人間だったはず。ラスティニャックのマリク・ジディは悪くないが、これもエネルギーを感じない。とりわけ、チェッキー・カリョのヴォ―トランが悪漢に見えない。ゴリオ爺さんの二人の娘も、私には美しいとは思えないし、魅力的とも思えない。バルザックのあらすじ紹介に終わったように思う。

 

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「パルムの僧院」 クリスチャン
=ジャック監督 1947

 言わずと知れたスタンダール原作の小説の映画化。ジェラール・フィリップがファブリス、マリア・カザレスがサンセヴェリナ公爵夫人、ルネ・フォールがクレリアを演じている。この映画、見たことがあったかどうか記憶が定かではないが、おそらく初めてだと思う。ジェラール・フィリップは私が映画を見始めたころにはすでに亡くなっており、伝説の映画俳優だった。

 とても楽しめた。前日にみた「ゴリオ爺さん」と違って原作のエネルギーが伝わる。スタンダールの美学、燃えたぎる愛がよく理解できる。ただ、やはりちょっと技法が古めかしく、画面も鮮明ではないので、感動するとまでは至らなかった。ジェラール・フィリップは今見てもあまりにカッコイイ。容姿もさることながら、演技も見事。ちょっと気になったのは、マリア・カザレスのウェストがあまりに細いこと。ルネ・フォールもかなり細い。この時代、このようなウェストのくびれた女性が美人とみなされていたのだろうか。

 

Photo


「魔の山」 ハンス・
W・ガイセンデルファー監督

 一言で言って、つまらなかった。ダボスの療養所をイメージできるのはうれしいが、ストーリーの表面を追っているだけで、トーマス・マンの小説のエッセンスはどこにも示されないように思える。ハンス・カストルプ青年の心の軌跡も十分に描かれない。これでは単に、「お金持ちが高踏的な学問や恋愛遊戯にうつつをぬかしているうちに戦争になった」という話になってしまう。しかも、そのような話だとしても、私にはおもしろいと思えなかった。

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