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映画「ディーパンの闘い」、そして至福の時間

 2016315日はとても充実していた。都内で二つの打ち合わせのあと、映画を見て、その後、夢のような会に出席した。

まずは映画について。角川シネマ新宿でジャック・オーディアール監督の映画「ディーパンの闘い」をみた。

 スリランカからフランスに難民として渡った3人の物語。実は赤の他人なのだが、難民申請に通りやすくするために夫婦と子どもを装う。その3人のフランスでの状況が描かれる。フランス社会に同化することと、疑似家族が家族として成り立っていくこと、一人一人が個人として平穏を得ることは同じ意味を持つ。外の社会でも、家庭の中でも、3人の心の中でも障害が生じる。3人の中心であるかつてスリランカでの反政府運動の勇士だったディーパンは自分のアイデンティティを成り立たせ、新しい家族を守り、同時に社会の平和を守ろうとする。すべてを解決するために、フランスでの暴力団同士の衝突事件に巻き込まれた偽の妻を捨て鉢になって助ける。この部分はまるですべてを解決するために敵のやくざの陣地に殴り込みをかける高倉健のようでやや荒唐無稽だったが、ヨーロッパ社会のあり方、難民や移民の状況、それぞれの心の奥がリアルに描かれる。実に説得力がある。

 3人がイギリスで平和な生活を送っている場面が描かれて終わる。偽夫婦の間に赤ん坊ができ、偽の娘も幸せそうにしている。やっと本当に家庭になったことが暗示される。ただ、そのハッピーエンドの場面でずっとミサ曲風の合唱曲が鳴っている。もしかするとこの音楽が仄めかしているのは、このハッピーエンドは幻想なんですよ、これは単にディーパンが最後に求めていた理想なんですよ・・・ということなのかもしれない。

 映画の後、夕方から夢のような至福の時を過ごすことができた。

オペラ演出家の三浦安浩さんが招いてくださって、「サロメ」出演者の打ち上げの会に参加させてもらった。新国立劇場のサロメの千秋楽を歌ったばかりのカミッラ・ニールントさん(先日のブログにも書いた通り、私は大ファンだ!)の真向かいに座り、ほとんど話せない英語で話をした(たぶん、ほとんど私の話は通じなかったと思うが)。隣はハンナ・シュヴァルツさん。私は何度うっとりしてこの方の歌を聴いたことか! 向かいはヨハナーンを歌ったグリア・グリムスレイさん。これから新国立劇場でもMETでも大きな役が約束されている人。しかも、1970年代の私の憧れの大スターだった往年のワーグナー歌手木村俊光さんとも話す機会が得られた。

ニールントさんに以前武蔵野でリサイタルを聴いた時からのファンであることを話すと、それが初めての来日で、実は強行軍での来日であって直前まで体調管理が大変だったこと、マッサージをしてもらってやっとの思いで歌ったこと、とても充実したリサイタルだったことを話してくれた。

そのほかあれこれと話を聞いた(私は英語が苦手なので思うことを言えず、ほとんどが聞くだけだった。しかも英語力不足と酒のためもあってときどき話が理解できなかった)。ほかに出席なさっていたたくさん方とも実に有益な話をした。だが、これ以上はここには書かない。そっと心の中の宝物として私一人のものにしておく。

翌3月16日。朝からあれこれの雑用に追われた。夕方から多摩大学内で開かれた、今年定年でお辞めになる諸橋正幸先生の送別会に出席した。諸橋先生はコンピューター言語を専門になさり、クラシック音楽を愛し、文学を愛し、広い教養を持たれた方だ。またおひとり多摩大学から尊敬する先輩が去っていく。・・・そういう私もあと1年で定年ではあるが・・・。

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