« エリシュカ+札響 チャイコフスキー4番が人類の魂の叫びの音楽に聞こえた | トップページ |  カルクの清澄で気品ある「四つの最後の歌」 »

新国立劇場「サロメ」 世界一流劇場並みの素晴らしい上演

2016312日、新国立劇場で「サロメ」をみた。「イェヌーファ」以上の素晴らしさ。世界の一流の劇場でもそれほど頻繁には上演されないレベルの上演だと思う。

サロメを歌うのは、カミッラ・ニールント(これまで、このブログではニールンド、ニルンド、ニュルンドなどと表記してきた)。たぶん15年くらい前になると思うが、彼女が武蔵野市民文化会館でリサイタルを開いた時から、私はこの歌手の大ファンだ(2007年に来日した時、パーティの席でニールントと話す機会があり、武蔵野で聴いたことを話すと、とてもうれしそうに応じてくれた)。今日も素晴らしかった。ヴィブラートの強くない澄んだ声でしかもかなり強靭。サロメにはぴったりだと思う。さすがに10代の少女には見えないし、踊りの部分はちょっと苦しいと思うが、オペラ歌手としては容姿的にも文句はない。ヨハナーン役のグリア・グリムスレイも美声で音程もいい。この人も細身で容姿も見事。最高の主役二人だった。

ヘロデを歌うのはクリスティアン・フランツ、ヘロディアスは先日、「イェヌーファ」で「おばあさん」の役を歌ったばかりのハンナ・シュヴァルツ。私は二人ともバイロイトで何度も聴いた。アクが強く、声も存在感があって文句なしの悪役二人。ヘロデとヘロディアスがこれほどまでに充実していると、音楽全体がしっかりしてくる。望月哲也のナラボート、加納悦子の小姓も主役格にまったく遜色がない。

オーケストラはダン・エッティンガー指揮の東京交響楽団。指揮に関しては実は私の趣味ではなかった。このオペラについては、もっと表現主義的な演奏のほうが私は好きだ。が、これはこれで見事な演奏。しっかりとドラマを作って、精妙で美しい音で説得力を持ってきかせてくれる。東響も素晴らしいと思った。シュトラウス特有の響きをしっかりと出している。アウグスト・エファーディングの演出については、今となってはかなりオーソドックスといってよいだろう。安心してみていられる。

しばしば陶然となった。新国立劇場のレベルの高さを痛感。中学生のころからこのオペラが大好きだった私は、今後、日本で最高の「サロメ」が見られる日が来るのだろうかと怪しんでいたが、それがまさしく実現しているわけだ。

ただ実は舞台に集中できなかった。隣に中年の女性がいたが、上演中、ずっとガムをかみ、しばしばオペラグラスを使い、途中で寒くなったようで服を着ていた。大きな音をたてていたわけではないので、むしろ私が気にしなければよいのだが、そうはいっても、視野に入るところで口がくちゃくちゃと動き、音楽に集中したいところでしょっちゅうオペラグラスを動かされると、やはり気になる。

 オペラグラスに関しては、オペラというのはまあそんなものだとは思うのでいいとして、マナーとしてガムをかむべきではないことも徹底するほうがよいのではないか。私は、演奏中に帽子をかぶったり、水を飲んだり、ガムをかんだり、飴玉をなめたりといったことは、健康上、宗教上どうしても必要な人以外は慎んでほしいと思う。一対一で尊敬する人と話しているとき、礼儀として帽子は脱ぐだろうし、ガムもかまないだろう。水や飴も出された時以外は飲食しないはずだ。それと同じことで、偉大な音楽や舞台上の人への礼儀として、そうしたことは守るべきだと思うのだが。

 ともあれ、素晴らしい「サロメ」を見ることができ、大好きなニールントの素晴らしサロメを聴くことができて、実に幸せだった。

 

|

« エリシュカ+札響 チャイコフスキー4番が人類の魂の叫びの音楽に聞こえた | トップページ |  カルクの清澄で気品ある「四つの最後の歌」 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

樋口先生、ほんと素晴らしい上演でしたねー。
私は初日に鑑賞して、先生のレビューを今かいまかと待ち構えてました(笑)

それにしてもガムのご婦人は残念ですね。オペラグラスも同じくです。私は隣の席でオペレグラスをせわしなく動かされるのもダメな方です。

主催者はマナーの件、どう捉えているんでしょうか?いつも疑問に思います。
開演前に「他のお客様へご迷惑行為は控えてください」とアナウンスがあり、その実例として「前かがみでの鑑賞など」をあげてますが、迷惑行為禁止の周知徹底がなされてないと思います。

チラシの入ったビニールのガサガサ音、お喋り、鼻をすする音、飴袋をカチカチあける音、咳、異臭(大抵は加齢臭)、フライング拍手など後を絶ちません。

音楽鑑賞ですから、一音漏らさず聞きたいという人たちに配慮するべきです。私は映画館の様に、上演前にスクリーンで具体例をすべて列挙して注意喚起するべきだと思います。何が具体的に他のお客さんへの迷惑行為になるか、わからない人もいるからです。

最高の上演なのに、音楽に集中できなかった…というくだりで胸が痛くなりましたし、二度読みの時にはここは辛くて読めませんでした。私も何度も嫌な思いをしています。

樋口先生のような影響力のある方の発言に感謝いたします。
音楽鑑賞のマナーに関して苦言を呈する人(公言する人)は少なく、私の知る限り他には美輪明宏さん、江原啓之さんくらいです。実際はもっといるはずに違いありません。

声をあげないと状況はよくならないと思いますので、私も勇気を振り絞って、今後はロビーで飯森さんを見かけたら陳情しようと思いました。

投稿: BRIO | 2016年3月13日 (日) 09時32分

BRIO 様
コメント、ありがとうございます。「サロメ」は本当に素晴らしい上演だったと思います。このようなレベルの高い上演が続くと、本当にうれしくなってきます。
おっしゃる通り、マナー違反の人も、まさか自分がマナーに反する行為をしているとは思っていないのだと思います。基準を示す意味で、おっしゃる通り、映画の場合のようなマナー向上を呼び掛けるアナウンス、または映像は有効かもしれません。真剣に考える問題ですね。知人の意見も聞いてみようと思います。ご意見、ありがとうございました。

投稿: 樋口裕一 | 2016年3月14日 (月) 14時36分

樋口先生、コメントへのご返信ありがとうございます。
マナー違反をしている人は自覚がない…まさにそうだと思います。私自身も退屈な上演のときに、無意識にほほを撫でて、ヒゲの"ジョリジョリ音"が出ていたことがあります。隣席の人に注意されるまで気がつきませんでした。劇場慣れしない人ならなおのことでしょうし、音響がいいので小さな音でも響くことは多くの人にとって盲点だと思います。

映画のように映像で事細かに注意喚起するのが無粋と受け取る向きがあるなら、オペラ寸劇仕立てでやるのも一計だと思います(研修生やカバーの人たちで面白おかしく演じる等)。また、「マナー違反の行為は…」ではなく、「オペラ鑑賞を楽しむために…」という切り口の方がいいかもしれません。ブラボー(ブラヴァ、ブラヴィ)について伝えるなど。演奏やカーテンコールが賑やかになる気がします。

投稿: BRIO | 2016年3月19日 (土) 17時45分

BRIO 様
コメント、そしてアイデア、ありがとうございます。
実は以前、ある会合でこの問題を議論したことがあります。その時は真っ二つに意見が割れました。おおまかには、「厳しくしてほしい」という演奏者と「あまり厳しくしたくない」という主催者側の意見対立でした。ただ、演奏者にも気にする方、気にしない方、本当は気になっていても尋ねられると「気になりません」と答える方など様々ですので、意思統一は難しいのが実情です。が、高齢のリサイタル初心者が増えている中で、何か新たに考える必要があると思います。及ばずながら、機会がありましたら、私も提案してみたいと思います。

投稿: 樋口裕一 | 2016年3月22日 (火) 08時23分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/63336239

この記事へのトラックバック一覧です: 新国立劇場「サロメ」 世界一流劇場並みの素晴らしい上演:

« エリシュカ+札響 チャイコフスキー4番が人類の魂の叫びの音楽に聞こえた | トップページ |  カルクの清澄で気品ある「四つの最後の歌」 »