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オペラ映像「エレクトラ」「タンホイザー」「セヴィリアの理髪師」

 私は多摩大学で入試委員会の一員であるため、2月、3月も入試業務が続いて、いつまでも春休みらしい気分になれなかった。先週あたりから、やっと私の担当は終わり、少し楽になってきた。

 何本かオペラ映像をみたので、感想を書く。

 

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リヒャルト・シュトラウス「エレクトラ」 ラ・フラ・デルス・バウス(スペインの舞台演出集団による公演) 2014

 野外で行われた大スペクタクル・オペラ。クレーン仕掛けの巨大な人形、あちこちで火が燃え、時に爆発し、大量の水があふれ出し、最後には大量の血が流れだす。その場にいたら、きっとあまりの大仕掛けに圧倒されるだろう。エレクトラはずっと赤い綱のようなものを腰に巻いている。血の絆の象徴だろう。実の父の復讐のために実の母を殺させようとする。すなわち最後まで血にこだわり、そこから自由になれない。

 しかし、あまりに大味。大スペクタクルなので、ドラマの内面が表現されない。しかも、どうやらこの公演は演奏面にあまり重きを置いていないようだ。エレクトラを歌うインゲラ・ブリンベリはまずまず声が伸びているが、クリソテミスのスザンナ・レヴォネンは声が出ていないし、クリテムネストラのイングリッド・トビアッソンにいたっては声が割れており音程も不確か。オペラ歌手とは思えないほど。それともよほど不調だったのか。

ラモン・ガンバの指揮するノルランズ歌劇場交響楽団もスケール大きく劇的な演奏にしようとしているようだが、求心力がなく、散漫な印象。大袈裟なだけで、むしろ緊張感がなくなってしまう。私は途中からステレオ装置で聴くのが耐えられなくなって、テレビの音に切り替え、しかも音量を小さめにした。

 

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ワーグナー「タンホイザー」 2014年 ベルリン・フェストターゲ

何はともあれバレンボイム指揮のベルリン国立歌劇場管弦楽団の演奏がものすごい。ドラマティックで厚みがあり、雄弁で、しかも美しい。歌手についても、ルネ・パーペの領主、ペーテル・マッテイのヴォルフラムは素晴らしいし、そのほか、ペーター・ザイフェルトのタンホイザー、マリーナ・プルデンスカヤのヴェーヌス、アン・ペーテルセンのエリーザベトも悪くない。しかし、オーケストラを聴いていると、何よりもその音のうねりに圧倒される。

演出はサシャ・ヴァルツ。この演出家はダンスの振付師として有名だとのことで、ダンスが実に雄弁。律動的でエロティックなダンス。登場人物の多くがきちんとスーツを着て何人かは大きな眼鏡をかけている。眼鏡は社会的な通念を受け入れていることの象徴なのだろうか。自分の目でしっかり見ようとするとき、登場人物たちは眼鏡をはずす。

それにしても、バレンボイム+ベルリンシュターツカペレの力量には驚くばかり。先ごろ、ブルックナーを聴いてそのすごさに圧倒されたが、ワーグナーでも本領を発揮している。

 

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ロッシーニ「セヴィリャの理髪師」 パルマ王立歌劇場 2011

実に楽しい映像。演奏も素晴らしい。

まず、序曲で若手のホープの一人であるバッティストーニの指揮に驚嘆する。生き生きとして強烈な序曲。音の積み重ねの手際も見事。ただ、幕が上がると序曲ほどの勢いがなくなってしまうのは致し方ないところか。それに、やはりまだオペラに十分に慣れていないせいか、オケと歌が合わないところが何か所かあった気がする。しかし、多少の傷はあろうと、やはり素晴らしい。

歌手も見事。フィガロのルカ・サルシ、バルトロのブルーノ・プラティコ、ドン・バジーリオのジョヴァンニ・フルラネットが歌もうまく実に芸達者。ロジーナ役のケテヴァン・ケモクリーゼも綺麗でおきゃんで歌もいい。アルマヴィーヴァ伯爵のドミトリー・コルチャックはちょっと歌唱の面ではぎこちないものの、とてもきれいな声で、いかにも育ちのよい若者の雰囲気があってとても好感が持てる。ベルタのナタリア・ロマンもこの役にしては考えられないほどの美人。ちょっと声がかすれるが、大した問題ではない。図抜けた歌手はいないが、全体的にとてもレベルが高く、存分に楽しめる。

ステファノ・ヴィツィオーリの演出も実に楽しい。新しい解釈などはないし、ト書き通りの時代の服装だが、舞台はモダン。小道具を上手に使い、影の効果もあって、律動感にあふれ、遊び心満載。日本語字幕もついているので、今、入手できるこのオペラの映像としては最高レベルといえるのではないだろうか。

 

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ロッシーニ「セヴィリャの理髪師」メトロポリタン歌劇場 
1989年 

 今となっては一時代前の演奏様式といえるかもしれない。最近の演奏よりも少しおとなしめ。とはいえ、ラルフ・ヴァイケルトの指揮は溌剌としており、しかもドラマティック。音に勢いがある。ジョン・コックスの演出についても、メトロポリタンだけあって、ほぼト書き通りの舞台が進行するが、ユーモアのセンスにあふれている。あちこちで笑いを誘う。もちろん、歌手たちが芸達者ということもあるだろう。バルトロの庭からイスラム建築風(?)が見えるのは、「囚われの女ロジーナ」を強調しているのだろうか。もちろん舞台はセヴィリャなのでイスラム風の建物があるのは歴史とは矛盾しない。

 ロックウェル・ブレイクのアルマヴィーア伯爵はちょっと平板だが、レオ・ヌッチのフィガロはさすがものすごい存在感。登場したとたんに舞台全体が生き生きとしてくる。ロジーナを歌うキャスリーン・バトルも本当に可愛らしくて溌剌としていてすばらしい。80年代、私はバトルを容姿がちょっと魅力的なだけの歌手と思っていたが、決してそんなことはないことがよくわかる。歌唱も本当にチャーミング。バルトロのエンツォ・ダーラもバジーリオのフェルッチョ・フルラネットも名人芸としか言いようがない。その芸達者ぶりに脱帽。当時のスター歌手たちの実力のほどを思い知らされる。

 

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