神奈川県民ホール「さまよえるオランダ人」 「夢オチ」には納得がゆかない
2016年3月19日、神奈川県民ホールで「さまよえるオランダ人」をみた。びわ湖ホール、京都交響楽団、東京二期会、神奈川フィルなどの共同制作。指揮は沼尻竜典、演出はミヒャエル・ハンぺ。装置・衣裳はヘニング・フォン・ギールケ。
音楽についてはかなり満足できたが、演出については大いに疑問を持った。
オランダ人を歌うロバート・ボーク、ダーラントの斉木健詞、ゼンタの横山恵子、エリックの樋口達哉、マリーの竹本節子、舵手の高橋淳、いずれも大健闘。日本人を中心にしたメンバーでは、現在考えられる最高レベルだというのは間違いない。つい先日、新国立劇場での「サロメ」の世界最高レベルの歌手陣を聴いたばかりだったので、初めのうちは少し不満に思ったが、彼らと比較しても仕方がない。今日の歌手陣も見事にワーグナーの世界を現出した。
沼尻竜典指揮の神奈川フィルハーモニー管弦楽団も、オペラを演奏するのに慣れていないにもかかわらず、しっかりと仕事をしている。とはいえ、やはり金管楽器群の弱さ、全体的な緊密なアンサンブルの不足は感じざるを得なかった。
が、それよりも何よりも私はやはり演出に納得できない。海や船の映像は実にリアル。それについては特に文句はない。が、このオペラ全体が舵手の夢だったというオチは、あまりに単純だと思う。今回の演出が「夢オチ」だということは前もっての情報で知っていたが、いくら何でももう少しひねりがあるのだろうと思っていたら、単に「すべてが舵手の夢でした」というだけだった。
これではいったい2時間半を超すワーグナーの世界はいったい何だったというのだろう。命をかけての愛と救済の物語も、ワーグナーのうねる世界もすべてゼロになってしまう。これでは、2時間半舞台上で寝ていた舵手役の俳優さん(舵手を歌った高橋淳さんとは途中で入れ替わったようだ)も、たったこれだけの役割しか果たさないとすると、徒労以外の何物でもないような気がする。演出のハンペはよほどワーグナーがお嫌いなのだろう。そうとしか考えられない。演出家である以上、このオペラの現代的意義を抉り出してほしい。それをしないで、「すべて夢でした」では、演出という行為の拒否でしかないと私は思う。
ところで、特に第一幕の間、ピーピーという音が聞こえていた。まるでトラックがバックするときの警告音のような音。あれは何だったんだろう。かなり気になった。演奏する方々にも聞こえているのではないかと心配になった。
これまでのびわ湖と神奈川県民ホールの共同制作による「ばらの騎士」や「ワルキューレ」は本当に素晴らしかった。それに比べると、今回は不満が残った。
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コメント
あのピーピー音は私も大変気になり音楽に集中できませんでした。
県民ホールに釈明願いたいですね。
投稿: あけちん | 2016年4月 6日 (水) 21時21分
あけちん様
コメント、ありがとうございます。音楽評論家の東条さんのブログを読んで、あの音の正体を知りました。幕間がありませんでしたので、注意しにくかったのでしょうが、何とか対応してほしかったと思います。
投稿: 樋口裕一 | 2016年4月 8日 (金) 10時30分