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映画「グランドフィナーレ」を楽しみつつ、新宿バルト9の大音響に閉口した!

 パオロ・ソレンティーノ監督の映画「グランドフィナーレ」を新宿バルト9で見た。とてもおもしろかった。

 自分が自分であると認識するのは、記憶でしかない。記憶によって過去を事実だと認識し、他者との関係を維持する。ところが、高齢になるにしたがって記憶が曖昧になっていく。すると、何が事実であるかわからなくなり、自分であることの自信がぐらつき、他者とのつながりも不安定になる。

 この映画の二人の主人公、かつての大音楽家フレッド・バリンジャー(マイケル・ケイン)と、その長年の友人である映画監督ミック・ボイル(ハーヴェイ・カイテル)は、まさにそのような状況に直面している。ともに老いを強く意識せざるを得なくなり、他者との絆を取り戻そうとし、事実を事実として確認しようとする。それができずにいら立ち、老いを嘆いている。この映画には、その二人がスイスの高原にある高級ホテルに滞在中に体験した様々な出来事が描かれる。

 登場人物の多くが、人とのつながりを失い、それを回復しようとあえいでいる。フレッドの娘は夫に裏切られ、別の男とのつながりを見つける。ハリウッド俳優は周囲の無理解にいら立ちながらも、なんとか人々との折り合いをつける。主人公の一人であるミックは、かつての盟友であった大女優ブレンダ(演じているのはジェーン・フォンダ!)に新しい映画への出演を断られ、それを機会に過去を振り切って新たなつながりを求め始める。

 最後、フレッドは、それまで拒否していた女王陛下からの依頼を受け入れ、今や痴呆になった妻(つまり、過去の記憶を失った妻)だけに歌ってほしいと思っていた自作の曲を指揮する。頑なに他者とのつながりを拒んでいた態度を改め、次の世代へと自分たちの記憶をつなげようとしたということだろう。

 最後の演奏会の場面で、ソプラノを歌うのはスミ・ジョー。カラヤンに見いだされて注目を浴びた韓国人ソプラノだが、しばらく動向を聴かなかった。懐かしい! そして、ヴァイオリンを弾くのがなんとムローヴァではないか!「え、もしかしてムローヴァ?」と思い、最後のクレジットで確かめた! 私の大好きなヴァイオリニストの一人だ。

 様々に解釈できる映画だと思う。私はここに書いたように受け取った。が、美しい画面、マラドーナを思わせる元サッカー選手やミス・ユニバースの女性やら食事に来て一切口を利かないカップルやらマッサージ女性やら、登場人物たちがとても魅力的。映像的にも美しい場面がたくさんある。かつてフェリーニに使われた言葉だが、ソレンティーノはまさしく映像の魔術師だと思った。様々に楽しめる映画だ。

 ところで、私は新宿バルト9でこの映画を見たのだが、音響の大きさに驚いた。最初から最後まで耳をつんざくような音。予告編だけが大音響なのかと思っていたら、本編が始まっても同じ大きさ。私には耐えられなかった。カバンの中にイヤホンステレオ用の密閉型イヤホンがあったので、それを耳栓代わりに使った。これがなかったら、私はきっと堪えらずに途中で外に出ただろう。なぜ、こんな大音響にする必要があるのだろう?

 終わった後、係の人にいつもこのように大音響なのか確かめたら、意図的にそのようにしており、それを喜ぶ客も多いとのこと。この大音響に堪えられない思いをするのは少数派なのだろうか。

確かに、私は騒音を我慢ならないと思うことがしばしばある。きっと平均よりは騒音に対してかなり不寛容(よい言葉を使えば、「敏感」ということになる)なのだろう。だが、多くの人がこのような無神経な大音響を平気でいられるとはどういうことだろう!と思わないではいられなかった。これから、できるだけ新宿バルト9では映画を見ないように心がけ、もしほかでやっていない映画がかかっているときには耳栓を用意していくしかなさそうだ。

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コメント

ああバルトは凄いですよ。もうこういう映画館としては立川のシネマシティと双璧です。立川などは「爆音」というものを売りにしてるくらいですからさらに凄いです。なにしろ重低音が凄すぎて映画館が揺れるといわれるぐらいですから。もう映画をみるというよりテーマパーク感覚といっていいと思います。現在ほんとにこういう映画館が多いです。充分お気を付けください。ただ個人的にはそれなりにこういうものに惹かれてはいるので嫌いではありません。

投稿: かきのたね | 2016年5月 8日 (日) 04時35分

かきのたね 様
コメント、ありがとうございます。
そうですか。大音響は新宿バルトだけではないんですね。
母と母方の祖父がともに70歳くらいからかなり耳が遠くなりましたので、私も同じようになる可能性がかなりあります。バルトにはその後に行くことにしましょう。
静かな音で落ち着いて聞くのが好きな私が映画に行くときには耳栓が必需品になりそうです。

投稿: 樋口裕一 | 2016年5月 9日 (月) 12時22分

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