ベロッキオ監督の映画「夜よ、こんにちは」「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」「眠れる美女」
5月3・4・5日はラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンで過ごした。その後、6・7・8・9日と家で過ごすことができた。その間、先日に続いて、ベロッキオ監督の映画をDVDでみた。感想を書く。いずれもとてもおもしろかった。とりわけ、「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」には感動した。
1978年に起こったイタリアのテロリスト集団「赤い旅団」によるモロ元首相誘拐殺人事件を題材にした映画。メンバーの一人である女性キアラは、モロ氏監禁し、その状態を見て話を聞いているうちに自分の行動に疑問を持ち始める。キアラの考えの揺れを非現実的な映像も含めて描いていく。
「赤い旅団」によるモロ氏誘拐殺人事件についてはよく覚えている。私自身を含む当時かなり左翼的だった若者の左翼離れを加速させた事件だった。
当時の独善的な過激派集団の意識、生きること、愛することへの根本的な問いが描かれてとてもおもしろい。映像も美しい。ただ、私としては「ポケットの中の拳」や「肉体の悪魔」ほどの衝撃は覚えなかった。
すべてを犠牲にしてムッソリーニ(フィリッポ・ティーミ)を愛し抜き、その息子を生みながら、のちにムッソリーニに捨てられ、存在を抹殺された女性(ジョヴァンナ・メッゾジョルノ)の自分と息子を認めさせようとして敗れていく物語。ムッソリーニが国民への演説で勝利を語り、国民を鼓舞し、国民の自由を訴える裏で、女性は人権を奪われ、精神病院に閉じ込められ、自由を失っていく。その不条理が絵画のように美しい画面によって語られる。事実に基づくようだ。
狂おしい愛のあり方、生命をかけた激しい闘いに圧倒される。画面全体に激しい生命があふれている。この映画にも圧倒的な美しい場面がいくつもある。絵葉書的に美しいのではなく、画面全体に生命が宿り、エロスにあふれている。大いに感動してみいった。
2009年、イタリアで植物人間として生きていた「眠れる美女」の尊厳死を認めるべきかどうかが政治的な問題になり、国論を二分する大騒動になったらしい。その騒動を背景にして、それぞれ尊厳死や自殺をめぐる三つのエピソードが描かれる。自殺や尊厳死を認めるべきか、それとも命を何よりも重視するべきか。重いテーマだが、映像があまりにリアルであまりに美しいために、つらい気持ちにならずに目を引き付けられて見入る。それぞれの人物の心の葛藤が真に迫っている。
様々な解釈が可能であり、様々な暗示が映画の中で示される。ベロッキオ監督自身の立場がどちらなのかもそれほど明確ではない。だが、監督が語ろうとしている大枠は、「人間の生命こそが何よりも大事だ。それを支えるのが人と人の絆であり愛である」というきわめて単純なことだと思う。単純だからつまらないというのではない。このような骨太のテーマががっしりとあるからこそそれぞれのディテールがリアルであり、それぞれの人物の感情に移入でき、登場するすべての人間が愛おしくなる。素晴らしい映画だと思った。
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