ムローヴァのシベリウスの協奏曲は私好みの演奏ではなかった
2016年5月28日、東京芸術劇場で読売日本交響楽団マチネ―シリーズを聴いた。指揮はキリル・カラビッツ。今回、初めて名前を知った。前半にベルリオーズの「ローマの謝肉祭」と、ヴィクトリア・ムローヴァが加わってシベリウスのヴァイオリン協奏曲、後半にプロコフィエフのバレエ音楽「ロメオとジュリエット」より。
私の目当てはシベリウスを弾くムローヴァ。彼女のバッハは現代の最高の演奏の一つだと思っている。彼女の演奏するシベリウスの協奏曲はCDも含めて聴いたことがなかったのでかなり期待して出かけた。
カラビッツという指揮者は大胆にダイナミックに鳴らすタイプの人のようだ。澄んだ凄まじい音が響き渡る。読響も指揮者の求める音をきれいに、しかも切れがいい。「ローマの謝肉祭」は実に爽快。ただ、私にはちょっと音楽としての起伏が一本調子の気がした。私は音楽にどうも乗れなかった。
シベリウスの第一楽章の出だしのオーケストラの美しさには息をのんだ。が、私の目当てであるムローヴァのヴァイオリンがあまりにクール。もちろん、見事な演奏で、技術的にも音楽的にも、きっとムローヴァのしたいことをしているのだろう。しばしばあっというような表情を聴かせる。繊細だったり、鮮烈だったり。だが、シベリウスらしい情熱のほとばしりが感じられない。第一楽章は冷たい空気を思わせるような怜悧な音で始まるのは私の好みだ。だが、徐々に熱してきて、大きな情熱のうねりになってほしい。ところが第三楽章に至ってもそうはならなかった。少なくとも、私の好きなシベリウスの協奏曲にはならなかった。
ムローヴァのアンコールとしてバッハの無伴奏ソナタの冒頭の曲。これは素晴らしかった。張りつめた空気の中に自由な遊び心があり、心の躍動がある。私は引きこまれた。今日の演奏の中でこの時間がもっとも充実していた。来た甲斐があったと思った。
後半の「ロメオとジュリエット」(プログラムの表記は「ロミオとジュリエット」となっていた)は、まさしく音の饗宴という雰囲気。オケの性能の良さは十分に感じることができた。が、音楽としてどうかというと、私には少々不満が残った。大きな音がしているし、それぞれの音はとてもきれいなのだが、それ以上のものを感じない。もう少しドラマとしての面白みを出してほしいと思った。アンコールは「三つのオレンジへの恋」の行進曲。これも同じ印象だった。
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