日生劇場「セビリアの理髪師」を楽しんだ
2016年6月18日、日生劇場でNISSAY OPERA2016「セビリアの理髪師」を見た。とても楽しかった。
演奏は園田隆一郎の指揮による新日本フィルハーモニー交響楽団。とてもよかった。園田は、とりわけ煽り立てることはないが、きれいな音で生き生きと、そしてきびきびとドラマを進める。日本に素晴らしいロッシーニ指揮者がいることを誇りに思う。新日フィルもとてもいいオーケストラだと改めて思った。
歌手もそろっていた。私がもっとも心惹かれたのはロジーナを歌った富岡明子だ。豊かな声量、美しい声、歌いまわしも躍動感があってロジーナにふさわしい。容姿、演技も素晴らしいと思った。バルトロの増原英也も安定した歌唱でとてもいい。しっかりとロッシーニの歌唱を身に着けているのに驚いた。ドン・バジリオの伊藤貴之、ベルタの山口佳子も演技、歌唱ともにとても楽しめた。
アルマヴィーヴァ伯爵の中井亮一とフィガロの青山貴ももちろん見事。二人とも出だしは少し不安定だったが、徐々にのびのびとした演技と歌唱になった。フィガロは大変な役だとつくづく思った。ウォーミングアップなしに、舞台に出ていきなり「私は街の何でも屋」を歌うのだから、初球から160キロのスピードボールで三者三振にすることを義務付けられているピッチャーのようなものだ。
演出は粟國淳。とりわけ新しい解釈はないと思う。伝統的な服装、伝統的な動き。だが、そうでありながら少しも飽きない。新鮮さを持たせるために細かい工夫がなされているためだろう。舞台上にもう一つ舞台を作り、二重舞台をうまく使って動きを出している。そこに「意味」はあまり込められていないようだが、視覚的にも動きがあって楽しい。
「セビリアの理髪師」を見るごとに思うのだが、これほどこのオペラは「鍵」が大きな意味を持ち、それこそがまさに「キーワード」なのに、なぜ、いろんな人たちがこうもやすやすと突然、バルトロの家に入ってくるのだろう。一体この家のカギはどうなっているんだろう。
そしてもう一つ。ベルタはいったい何者なのだろう。まったく存在する必要はない。むしろ公証人のほうにちゃんとした歌を与えるべきなのに、公証人は声を出さず、ベルタは第二幕では魅力的なアリアまで与えられている。音楽的にソプラノが必要だったということもあるのだろうが、それにしても謎めいている。少し考えてみたい。
ロッシーニのオペラを見ると、日ごろのうつうつとした気分をしばしの間、忘れることができる。ロッシーニは素晴らしい。
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