2日連続の浜離宮朝日ホール 石田泰尚リサイタルに感動
2016年7月18日と19日、連続して浜離宮朝日ホールでコンサートを聴いた。18日の東京‐ウィーン四重奏団の演奏は私の好みではなかった。19日の石田泰尚ヴァイオリン・リサイタルは素晴らしかった。
まずは18日の東京-ウィーン四重奏団の演奏について。このカルテットは日本人3人、オーストリア人1人が2011年に結成したという。きれいなアンサンブルだということで薦めてくれる人がいたので聴いてみたのだった。「ウィーン風に奏でる最後のカルテット」といううたい文句。曲目は前半にハイドンの「ひばり」とモーツァルトの第21番(K.575)の弦楽四重奏曲。
少なくとも私の好みとは正反対の演奏だった。当たり障りのない、勢いのない演奏。確かにウィーン風に優雅といえば優雅なのだろうが、アレグロの部分もヴィヴァーチェの部分も穏やかでゆったりとしていてアンダンテの部分と大きな差がない。ハイドンもモーツァルトも特に雰囲気は変わらず、ずっとのどかで平板な雰囲気が続く。
久しぶりにこんなに何も起こらない演奏を聴いた。音楽への切込みも何らかの解釈も、少なくとも私には感じられなかった。ただ、きれいに合わせただけ。何らかの意図をもってこのようにしているのだろうか。そうだとすると、何をしようとしているのだろう。私にはわからなかった。後半にベートーヴェンの弦楽四重奏曲第16番が予定されていたし、これこそが私の目当てだったのだが、このようなのどかで起伏のないベートーヴェンを聞くのはつらいと思って、大変もったいないと思いつつ、後半を聴かずに帰った。
19日の石田泰尚のリサイタル(11時半に始まる「ランチ・タイム・コンサート」だった)は、それとはまったく正反対で、はっきりした自己主張があり、しっかりとした美学に貫かれている。これこそが音楽だと私は思う。
最初の曲はベートーヴェンのロマンス第2番。以前、石田さんの演奏を聴いた時もリサイタル冒頭はぎくしゃくしていたが、今回も同じ雰囲気だった。きっと見かけと違ってかなり神経の細かい人なのだろう。が、だんだんと気合が入ってきて、ロマンスの途中から、実に芯のしっかりした音になった。グリーグのヴァイオリン・ソナタ第2番もとてもよかった。あまりロマンティックな思い入れをしないのは、そうすることに気恥しさを感じるからか。が、形の崩れないしっかりした抒情があるのがよくわかる。ピアノは中島剛。ピアノ伴奏も素晴らしい。ヴァイオリンをしっかりと補佐し、ともに豊かな音楽を作っている。素晴らしいピアニストだと思う。
後半はクライスラーの「オールド・リフレイン」「道化役者」「テンポ・ディ・メヌエット」「おもちゃの兵隊の行進曲」「ウィーンの小さな行進曲」、そしてプロコフィエフ(ハイフェッツ編)の「3つのオレンジの恋の行進曲」、サン=サーンス「死の舞踏」、テオドラキスの「《その男ゾルバ》より〈ゾルバの踊り〉」。
「死の舞踏」などの技巧的な曲の切れがとてもいい。しかも、俗っぽい曲を演奏しても、そして、俗っぽく演奏しても、そこに俗にまみえることのない気高い音がビンビンと響いている。なるほどこれが石田さんの言う「男気」なのか。客席は大いに盛り上がった。私も大いに感動した。
アンコールも盛りだくさん。ピアソラの「現代のコンサート」、マスネの「タイスの瞑想曲」(この演奏中、震度3程度の地震があったが、何事もなかったように演奏が続いた。もしかしたら、石田さんは地震に気付いておられなかったのかも)、ファリャ「スペイン舞曲第一番」、プッチーニ「誰も寝てはならぬ」。いずれも素晴らしい。とりわけ、プッチーニにはびっくり。特に技巧を要する曲ではないと思うが、実に美しい音。しかも、単に外面的に美しいというのではなく、気高くて抒情的。石田さんはやくざ風の格好で、アンコールの際には空手の道場着のような服装で登場。ある意味で客に媚びているように見えるのだが、音楽を聴くと、まったく媚びていない、いやそれどころか、媚びとは正反対の音楽性を感じる。これがこの人の愛されるキャラクターなのだと思う。私も大好きになった。
あっという間の2時間。楽しみ、そして感動した。
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コメント
樋口先生、こんにちは!
昨日の浜離宮石田さん、聴かれたんですね。うらやましい!
昨日はまた色々大盤振る舞いだったようで、みなさまの感想を読みながらいいないいなと悔しがっています(/_;)。
石田さんの「誰も寝てはならぬ」は、本当に鳥肌ものです。私も大好きです。
投稿: 平田 | 2016年7月20日 (水) 11時21分
はじめまして。石田(vion)美音泰尚さんの浜離宮朝日ホール素晴らしかったですね。
サプライズ❗赤の作務衣での第三部encore・・真摯な音とのギャップに聴衆も大盛り上がり🎵最近は男性客のお声掛けも6月MM大ソロ辺りからロック会場の様子を呈して・・(笑)
演奏中の地震は2度目ですが、以前のひどいゆれにも揺るぎ無く、騒然としかけた聴衆を繊細さと優美な演奏で落ち着かせました🎵
投稿: IMASU | 2016年7月21日 (木) 04時41分
平田様
コメント、ありがとうございます。ご無沙汰しています。
おっしゃる通り、大盤振る舞いでした。そして、最後の「誰も寝てはならぬ」。私はプッチーニ嫌いなのですが、石田さんのあの歌わせ方には本当に感動しました。心の奥底にある純粋で気高いが音になったかのようでした。また、石田さんの演奏を聴きたいものです。
投稿: 樋口裕一 | 2016年7月21日 (木) 08時36分
IMASU 様
コメント、ありがとうございます。
あれは「作務衣」と呼ぶべきものなんですね。知りませんでした。道場着だとばかり思っていました。私は石田さんの演奏を聴くのは三度目ですので、まだまだ新鮮な感動を覚えることができそうです。それにしても、本当に魅力的な音楽ですね。ぜひまた聴かせていただきたいと思っています。
投稿: 樋口裕一 | 2016年7月21日 (木) 08時46分
樋口先生 ご返信有難うございます。
石田泰尚さんのcharacter、produce力、service精神と申しますか、稀にお茶目系を発揮され、無口で怖いimageとの激しい落差で ファンはあの トノーニとゴフリラーVnの美しい音と不意のサプライズと共に
「聴き逃せない・見逃せない!」と言うのが実状で「聴衆に媚びる・阿る」は、音に真摯な彼の辞書には皆無と確信しており、音楽に癒される日々に感謝しております🎵
投稿: IMASU | 2016年7月21日 (木) 11時45分
IMASU 様
おっしゃる通りだと思います。が、まだまだ石田さんについては初心者の私には不思議に思えるところがたくさんあります。もう少し聴けば、だんだんと理解が深まるのでしょうか・・・
投稿: 樋口裕一 | 2016年7月27日 (水) 10時48分