イタリア・オペラ映像「ノルマ」「夢遊病の女」「セビリャの理髪師」「ルチア」
数年前の私からは考えられないことだが、イタリア・オペラの映像をみつづけている。実を言うと、いまでもワーグナーやシュトラウスやベルクやヤナーチェクのほうに圧倒的に深い感動を覚えるが、イタリア・オペラもそれはそれでとてもおもしろい。いくつかの感想を書く。
歌唱的にはちょっと難がないでもない。ノルマを歌うフィオレンツァ・チェドリンスの声が何度か途切れる。歌唱の上では歴代最高のノルマ歌いではないかもしれない。アダルジーザのソニア・ガナッシもちょっと苦しいところがある。だが、映像で見ると、ちょっとした難点など忘れてしまう。チェドリンスの美しさ、そしてその演技力に圧倒される。けなげな表情、狂おしい表情、気性の激しい表情を歌に応じて見せてくれる。容姿と演技まで含めると歴史に残るノルマ歌いに十分に数えられると思う。ガナシもけなげな女性を演じて見事。ポリオーネを歌うヴィンツェンツォ・ラ・スコーラもオロヴェーロのアンドレア・パピも素晴らしい美声。
ジュリアーノ・カレッラの指揮、フランシスコ・ネグリンの演出も不満はない。全体的に素晴らしい映像だと思った。

ベッリーニ「ノルマ」2005年 カターニャ、ベッリーニ大劇場
赤毛姿のディミトラ・テオドッシュウがタイトルロールを歌う。歌唱に関しては、チェドリンスよりも安定しているし、声も美しいだろう。容姿、演技もオペラとしては見事。ただ、チェドリンスの凄まじい演技を見た後では、視覚的にはやや印象は薄れてしまう。
アダルジーザを歌うニディア・パラチオスはとても安定している。ただ、ポリオーネのカルロ・ヴェントレ、オロヴェーゾのリッカルド・ザネッラートはともに少し声が出ていないことがあった。とはいえ、全体的には歌手陣は見事。ジュリアーノ・カレッラの指揮によるカターニャ・ベッリーニ歌劇場管弦楽団、ワルター・パリアーロの演出についても、まったく不満はない。
残念ながら、アミーナのエグリゼ・グティエレスがかなり弱い。注目の若手歌手だということだが、全体的に音程が不確かで声量も不足ぎみ。確かにきれいな高音だが、高音を丁寧に歌おうとするあまり平板になっている気がする。アントニーノ・シラグーザ(エルヴィーノ)との二重唱も二人の声がしっかりと合わない。シモーネ・アライモ(ロドルフォ伯爵)、サンドラ・パストラーナ(リーザ)、そして、指揮のマウリツィオ・ベニーニ、カリアリ歌劇場管弦楽団&合唱団もリハーサル不足なのか、びしっと合わない。聴いているほうとしては少々欲求不満に陥る。ウーゴ・デ・アナの演出については、舞台も美しく、ストーリーもわかりやすくて私としてはまったく不満はない。

世界文化社 オペラ名作劇場6 「セビリャの理髪師」 ロッシーニ、パイジェッロ
パイジェッロとロッシーニの二つの「セビリャの理髪師」が収録DVD2枚組のムック。パイジェッロの「セビリャの理髪師」の映像を見たくて購入した。ロッシーニ作曲のものよりも30年以上前に作曲された。モーツァルトを思わせるメロディがいくつもある。とてもおもしろいし、とても美しい。なかなかの名曲だと思った。ただ、やはりロッシーニと比べると、やはり格段におとなしい。ローマ室内歌劇団の1970年の大阪フェスティバルホールでの公演を収録したもの。伯爵のアルヴィーニオ・ミシアーノ、フィガロのセスト・ブルスカンティーニ、バルトロのカルロ・バディオーニ、バジーリオのプリニオ・クラバッシはとても安定していて楽しめる。ただ、ロジーナを歌うエレナ・ズィーリオがあまりに弱い。
ロッシーニのほうは、1992年のーデルランド歌劇場の公演。こちらは文句なしの名演だと思う。指揮はアルベルト・ゼッタ。生き生きしているだけでなく、しなやかで美しい。演出はダリオ・フォー。めっぽう楽しい。召使たちを黒子のように使い、舞台をしつらえる。それを含めてユーモアとエスプリにあふれている。歌手たちも見事。フィガロのデヴィッド・マリス、アルマヴィーヴァ伯爵のリチャード・クロフト、バルトロのレナート・カペッキ、バジーリオのシモーネ・アライモはいずれも最高レベルの歌唱。そして、ロジーナを歌う若きジェニファー・ラーモアがそれにもまして素晴らしい。私がラーモアの名前を知ったのはそれほど前のことではなかった気がするが、90年代からこんなに素晴らしかったとは。太めの声で生き生きと歌う。そして、実に美しい。ロジーナはこうでなくっちゃ!

ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」2003年 ジェノヴァ、カルロ・フェリーチェ歌劇場
エドガルドを歌うマルセロ・アルバレスが素晴らしい。声の美しさ、声の強さ、すべてにおいて圧倒的。そのほかの歌手については悪くないのだが、私はアルバレスほどの感銘は受けなかった。ルチアのステファニア・ボンファデッリは容姿も美しいし、声もきれいなのだが、歌の躍動を感じない。エンリーコのロベルト・フロンタリ、アルトゥーロのクリスティアーノ・オリヴィエーリは、やはりアルバレスに比べると、声がくぐもって聞こえる。パトリック・フルニリエの指揮するカルロ・フェリーチェ歌劇場管弦楽団も躍動感に欠ける気がする。
グレアム・ヴィックの演出はわかりやすいし、とても色遣いがきれいなのだが、大きな月と赤毛のルチア・・・という狂った世界の描き方はやや「ベタ」すぎるように思う。
というわけで、ちょっと不満の残る映像だった。
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