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「シアター・プノンペン」と「帰ってきたヒトラー」

 映画を2本みた。岩波ホールで「シアター・プノンペン」、TOHOシネマ新宿で「帰ってきたヒトラー」。簡単に感想を書く。

 

「シアター・プノンペン」はソト・クォリーカーという女性監督の作ったカンボジア映画。

 プノンペンに住む女子大学生ソポンは目的もなくやや自堕落な生活を送っているが、あるときプノンペンの壊れかけた映画館で自分の母が出演した映画を見る。完結編が失われたというその映画を完成させようとするうち、クメール・ルージュの時代の様々な事実が明らかになっていく。そして、様々な立場でクメール・ルージュの時代を生き抜いてきた日々との融和を訴える。

そんなストーリーだが、過去と現在が交錯し、どんでん返しがあり、人々が生きがいを取り戻すというテーマもありで退屈はしない。それにカンボジアの田園風景を描く映像が美しい。その心意気は素晴らしい。とはいえ、盛りだくさん過ぎて、ストーリー展開に無理がある。また、「ニューシネマ・パラダイス」など、これまで見た覚えのあるたくさんの映画のつぎはぎに思えるようなところも少なくない。おもしろくは見たし、魅力を感じたが、感動するほどでもなかったし、名画というほどでもなかった。

それにしても、プノンペンの変わりように目を見張った。私がプノンペンやシェムリアップ、アンコールワットなどを訪れたのは1992年だった。内戦は終わっていたが、時々銃声が聞こえ、小競り合いが続いていた。クメール・ルージュによる破壊から立ち直りつつあるとはいえ、焼け跡時代の日本と重なる風景だった。裸同然だったり、ぼろきれをまとっただけだったりの子どもたちがたむろし、バラックのような建物があちこちにあった。

ところが、この映画の中のプノンペンはネオンが輝き、高層ビルがたくさん立っている。もちろん途上国らしさは裏町には残っているが、近代的な大都会に見える。プノンペンのこの25年の変化は大きそうだ。久しぶりにカンボジアにいきたくなった。

 

「帰ってきたヒトラー」は、デヴィット・ヴェンド監督のドイツ映画。これは最高におもしろく、しかも刺激的だった。

突然、ヒトラーが2014年にタイムスリップする。本人は大まじめに自分がヒトラーであることを訴えるが、周囲は本気にしない。テレビ局をクビになったディレクターがヒトラーを題材に番組を作ろうとするうち、ヒトラーはお笑い芸人とみなされ、人気を得ていく。初めのうちはみんな笑ってみているが、徐々にヒトラーの扇動に乗っていく。ヒトラーは大衆の心の奥にある排他的で暴力的な本音を代弁したのであって、ヒトラーを生み出す状況は現代社会にも十分にある。そのような状況をこの映画は描き出していく。

しかも、ドキュメンタリー映画ふうにヒトラー役の役者がヒトラーになりきって街に出て人と話したり、現実と虚構が入り混じったりする。映画として実に手が込んでいる。なんでも利用して視聴率を取ろうとしているうちに、むしろ抜き差しならなくなっていくテレビというメディアの危険性も描かれる。そうしながら、まさしく虚構と思われていたものが現実になっていく様子が展開される。

ぞっとするようなリアリティをもった映画だった。

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映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

私も先日「シアター・プノンペン」を観ました。実は「帰ってきたヒトラー」にしようかと、直前まで迷っていたのですが、クメール・ルージュの傷跡の描き方に興味があって「シアター・プノンペン」にしました。映画の出来はご指摘のとおりだと思います。やっぱり「帰ってきたヒトラー」にすればよかったかな‥と後悔しています。

投稿: Eno | 2016年7月15日 (金) 18時38分

Eno様
コメント、ありがとうございます。私もクメール・ルージュにはかなり関心があります。日本でポル・ポトの社会実験をたたえる研究が出ていたにもかかわらず、徐々にその悲惨な状況が伝えられていったころを今でもよく覚えています。「シアター・プノンペン」では、そのあたりの状況をもっとえぐってくれればおもしろかったのですが、ちょっと中途半端だったように思います。その点、「帰ってきたヒトラー」は、少なくとも私にはかなり深く社会をえぐっているように思えました。

投稿: 樋口裕一 | 2016年7月16日 (土) 18時46分

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