オペラ映像「セビーリャの理髪師」「チェネレントラ」「オリー伯爵」「ヴィルジ家のジェンマ」「ピーア・デ・トロメイ」「パリのジャンニ」「ポリウート」
夏休みは終盤になった。このところ原稿執筆に追われていたが、今日はクラーク国際高校横浜校で小論文の特別授業を行った後、久しぶりの少しゆっくりした。
イタリア・オペラの映像を何本かみたので感想を書く。
「セビーリャの理髪師」「チェネレントラ」「オリー伯爵」
20世紀のグラインドボーンの映像。「セビーリャの理髪師」「チェネレントラ」「オリー伯爵」、今の上演スタイルとはかなり異なるが、いずれも素晴らしい。グラインドボーンの演奏、演出のレベルの高さを改めて感じる。
「セビーリャの理髪師」(1981年上演)は、フェルッチョ・フルラネットのバジーリオが凄まじい。マリア・ユーイングのロジーナも不思議な魅力にあふれている。それ以外の歌手もそれぞれ見事。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮するのは若きシルヴァン・カンブルラン。現在のヘアスタイルとまったく異なるので、映像で見ても誰だかわからなかった。指揮は、多少ゆっくりしているが、生き生きとしていて実にいい。
「チェネレントラ」(1983年上演)も見事な上演。タイトルロールのカスリーン・クールマンについては私はまったく知らなかったが、とてもいい歌手だと思う。
この3枚の中で私がもっとも惹かれたのは「オリー伯爵」(1997年上演)だった。そのなかでも、伯爵夫人アデルを歌うアニク・マシスに驚嘆した。「真珠とり」のDVDでみたことがあったが、これほどの歌手とは知らなかった。容姿も気品にあふれ声も美しく、絶妙の歌いまわし。フランス語の発音が素晴らしいと思ったら、どうやらこの人フランス人らしい。オリー伯爵を歌うマルク・ラオもみごと。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮するのはアンドルー・デイヴィス。てきぱきとしていて楽しくて、すばらしい。

ドニゼッティ「ヴェルジ家のジェンマ」2011年 ベルガモ ドニゼッティ音楽祭
15世紀、百年戦争後のフランスの貴族の愛憎劇。子どもが生まれないためにヴェルジ伯爵(マリオ・カッシ)に離縁され、苦しむジェンマ(マリア・アグレスタ)。ジェンマを愛するアラブ人奴隷タマス(グレゴリー・クンデ)がついには伯爵を殺し自害する。
いつものドニゼッティの雰囲気。旋律も豊かでわかりやすく、十分に楽しめる。ただ、やはり有名な「ランメルモールのルチア」や「愛の妙薬」「ドン・パスククァーレ」「連帯の娘」ほどわくわくするメロディがあるわけではない。
若い歌手たちなのだろう。歌手のほとんどの声が伸びず、音程が不安定で声のコントロールが甘い。とりわけカッシがかなり不調。その中で圧倒的な歌唱で楽しませてくれるのが、タマス役のクンデ。一人だけ堂々たる輝かしい声で音程もしっかりして声が伸びている。
ロベルト・リッツィ・ブリニョーリの指揮するベルガモ・ガエターノ・ドニゼッティ音楽祭管弦楽団はやや雑な印象を受けるが、とてもエネルギッシュに演奏している。ロラン・ゲルバーの演出はわかりやすくて美しい。

ドニゼッティ「ピーア・デ・トロメイ」 2005年 ヴェネツィア フェニーチェ劇場
今回初めてこのオペラを見た。それどころか、イタリア・オペラに疎い私は、その存在さえもこれまで知らなかった。だが、なかなかの名曲だと思う。13世紀のシェーナを舞台にする、不貞と誤解されて命を絶たれることになった女性ピーアの物語。
美しいアリアがふんだんにあり、ストーリーもわかりやすく、感情移入しやすい。ただ、私はオペラを見ながら「密会の相手は弟だったとさっさといえば、それで解決するではないか! いつでもいえただろうに!」という疑問を抑えきることはできなかったが。いずれにしても、もっと上演されてしかるべきオペラだと思う。ドニゼッティの有名オペラに劣らないおもしろさだ。
この上演も素晴らしい。歌手陣のレベルが非常に高い。とりわけ、ピーア役のパトリツィア・チョーフィが声も容姿も最高度にもりあげる。とても清澄な声であり、しかも強靭。そのほか、ギーノのダリオ・シュムンク、ロドリーゴ(ズボン役)のラウラ・ポルヴェレッリ、ウバルトのフランチェスコ・メリ、ネッロのアンドルー・シュレーダもそろっている。パオロ・アッリヴァベーニの指揮もいいし、クリスティアン・ガンニェロンも色遣いが大胆でわかりやすい。

ドニゼッティ 「パリのジャンニ」 マルティーナ・フランカ 2010年
引き続き、ドニゼッティのオペラ映像を見る。
15世紀のパリの物語。王様が平民に変装して婚約者である王女を前もって見きわめようとして恋に落ちる、というありがちな話。もちろん、私がこのオペラに触れるの初めて。「ピーア・デ・トロメイ」と同じように、購入するまで存在も知らなかった。ドニゼッティの音楽も、ありがちといえばありがち。だが、軽いオペラとしてなかなか楽しい。ドニゼッティのいくつかのオペラはロッシーニっぽいが、これもその一つ。
ナヴァラの王女を歌うエカテリーナ・リョーヒナはとても可憐。声の質を嫌う人もいそうだが、音程もいいし、声も伸びている。ジャンニを歌うエドガルド・ロチャ、執事長のロベルト・デ・カンディアをはじめ、歌手たちはみんな素晴らしい。ただ、2010年とは思えない低レベルの音質・画質であるせいなのかもしれないが、イタリア国際管弦楽団の音があまり美しくない。ジャコモ・サグリパンティの指揮も、元気があるわりには、それほど私は惹かれなかった。フェデリーコ・グラッツィーニの演出は舞台を現代に移している。

ドニゼッティ「ポリウート」2010年 ベルガモ、ドニゼッティ音楽祭
ドニゼッティのオペラ映像を見続けている。このオペラも初めて知ったが、なかなかの名作だと思う。キリスト教初期の夫婦愛と殉教の物語。コルネイユの「ポリュークト」と同じ題材(といいつつ、コルネイユのこの戯曲はたぶん読んだことがないと思う)。ストーリーもわかりやすく、ドラマティック。ヴェルディ風に聞こえるところが多々ある。
やはりポリウートを歌うグレゴリー・クンデが圧倒的に素晴らしい。張りのある見事な美声、そして表現力。パオリーナを歌うパオレッタ・マッロークもセヴェーロのシモーネ・デル・サヴィオもとてもいい。マルコ・スパーダの演出も色鮮やかでわかりやすい。ただ、マルチェッロ・ロータの指揮するベルガモ・ガエターノ・ドニゼッティ音楽祭管弦楽団も合唱団もかなり貧弱。
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