風の丘HALL「ウェルテル」に感動した
千葉市の風の丘HALLでマスネのオペラ「ウェルテル」をみた。素晴らしかった。感動した。何度か涙が出てきた。
風の丘HALLは、大澤ミカさんが主催する85席のオペラ専門ホールで、17年前から精力的にオペラ公演を続けている。私は昨年だったか、「道化師」を見てとても感動した。東京の東のはずれにある私の家から千葉市はかなり遠くてに行きづらいのが残念。
小山陽二郎のタイトルロールがとりわけ凄い。張りのある美声がビンビンと響く。若いウェルテルの悩みが伝わってくる。斉藤紀子のシャルロットもとても強い声で、しかもちょっと肉感的。藤井冴のソフィーも明るくて清純。野村光洋のアルベールも凄みがある。畠山茂の大法官も安定していて実にいい。子供たちの合唱もしっかりとした出来栄え。ピアノの村上尊志もドラマティックな音楽を作り、指揮の役割も果たしている。
演奏も素晴らしかったが、私がそれ以上に凄いと思ったのは三浦安浩の演出だった。
プログラムにも書かれていた通り、ワーグナーを意識した演出。そう思って聴くと、確かにワーグナーを彷彿とさせる部分がいくつもある。しかも、最後の部分の二重唱は「トリスタンとイゾルデ」のマスネ版ではないか!
舞台には木の葉の貼られたカーテンがいくつか貼られている。それらの木の葉は子供たちの手作りだという。それらは森を象徴するだろう。「トリスタンとイゾルデ」が海で始まり2人の魂の合一を歌い上げるように、「ウェルテル」は森の中での合一を歌う。しかも、背景に子供たちの「ノエル(すなわち英語で言うクリスマス)を祝う合唱が歌われる。背徳の合一、しかもきわめて神秘的で秘教的な合一。私は三浦さんの演出をみながら、そのようなことを考えていた。
舞台が終わったあと、主催者の大澤さんが登場して、この公演を最後に、しばらくHALLを閉じることが伝えられた。。経済的に困難な状況だという。こんな素晴らしいHALLを閉じたままにしてはいけない。1日も早い再開をお願いしたい。
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コメント
先生、ご来場ありがとうございました そして素晴らしい評をありがとうございます あの最終幕の二重唱のまさにトリスタン的な部分は通常演奏されないのですが、初版にあるものを今回演奏しています もしかしたら本邦初演かも知れません。
投稿: 三浦安浩 | 2016年10月 3日 (月) 15時46分
三浦安浩 様
そうでしたか。オーケストラ版でこれまで実演も映像も何度も接してきましたが、「ワーグナーの女性っぽいヴァージョン」と思うだけで、今回ほど、ワーグナーを感じることはありませんでした。途中から、「そうか、これはマスネのトリスタンなんだ」と考え始めました。
ただ、子どもたちが清純に「ノエル」を歌うこと、ウェルテルがしばしば自然宗教のようなものをたたえ、三浦さんの演出でもその点が強調されていること・・・、こうしたことがワーグナーとはかなり異なるのだろうと考えていました。が、残念ながら、その点については考えがうまくまとまりませんでした。もう一度見てみたいと思いつつ、時間が取れないのが残念です。
しかし、それにしても日本の演出家に、このような発見をさせてくれ、あれこれの考えを巡らせてくれる三浦さんのような方がおられるというのは本当にうれしいことです。次の機会もぜひとも見たい気持ちに駆られております。
投稿: 樋口裕一 | 2016年10月 4日 (火) 08時40分