ウィーン国立歌劇場公演「ナクソス島のアリアドネ」に感動した
2016年10月25日、ウィーン国立歌劇場公演「ナクソス島のアリアドネ」をみた。全体的に素晴らしい。
まず、プロローグで作曲家のステファニー・ハウツィールの溌剌とした役作りに心を惹かれた。見事に生き生きとした声と演技。そして、まさしく初々しい青年作曲家に見える容姿。カサロヴァが予定されていたのに配役が変更になったので失望していたのだったが、カサロヴァにまったく引けを取らない作曲家だった。そのほか、音楽教師のマルクス・アイヒェも舞踊教師のノルベルト・エルンストも見事。さすがウィーン。すべてが世界最高。
「オペラ」が始まってからも三人のニンフも声がそろって美しい。ハルレキン、スカラムッチョも実にいい。アリアドネのグン=ブリット・バークミンも張りのある澄んだ声で、声量もある。とてもいい歌手だと思った。ただ、私は50年ほど前からこのオペラが大好きで、繰り返しシュヴァルツコップの歌うレコードを聴いて、その素晴らしさに感動してきたので、どうしてもそれと比べてしまって、満足できずにいる。とはいえ、「清らかな国」のアリアには心から感動した。
ツェルビネッタを歌うのはダニエラ・ファリー。もちろん素晴らしい歌だったが、実演で二度聴いたグルベローヴァには声のコントロールや声量、声の美しさなどすべてにおいてかなり劣ってしまう。仕方がないことだが。
とりわけ素晴らしかったのは、バッカスを歌ったステファン・グールド。圧倒的な声量でホール全体に美しい声が響き渡った。若々しく堂々たる神の声だと思った。先ほども書いた通り、私はこのオペラを50年前から愛し続け、可能な限りの実演と映像、録音をみききしてきたが、その中で最高のバッカスだった。
マレク・ヤノフスキの指揮によるウィーン国立歌劇場管弦楽団は、きりりと引き締まった透明な音によって音楽を紡ぎだしていく。実に素晴らしい。ただ、ヤノフスキの指揮はあまりに生真面目! このオペラは「トリスタンとイゾルデ」のパロディであり、コメディア・デッラルテの入りこんだ道化芝居でもある。おふざけあり、遊びあり、生真面目に見えつつ人を食ったような不真面目さがあるはずなのだが、そのようなとぼけた味はヤノフスキのタクトからは聞こえてこなかった。とはいえ、このような味わいをヤノフスキは出したいと思っていないのだろう。それはそれで見事なオーケストラだった。
演出はスヴェン=エリック・ベヒトルフ。「オペラ」の部分でも「プロローグ」の人物が登場し、最後にはツェルビネッタと作曲家が愛し合う。このごろよく見かけるタイプの演出。とても美しくて魅力的な舞台ではあるが、あまり斬新ではない。とはいえ、世界から神聖なるものが失われつつある時代において、音楽はどうあるべきかというホフマンスタールとシュトラウスの問いかけを真正面から描いているように思えた。私としてはとても気に入った。
これまで触れてきた歴史的名演に比べると劣るところは多少はあったが、それでも現在考えられる限り最高の「アリアドネ」だったことは間違いない。とても感動した。とても幸せだった。
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