« ロッシーニのオペラ映像「幸運な間違い」「アルジェのイタリア女」「セビーリャの理髪師」 | トップページ | マリインスキー 「エフゲニー・オネーギン」、第3幕に感動 »

伯母の他界、懐かしい人からの電話。

 大分県日田市で暮らしていた伯母が一昨日の夜に亡くなった。96歳だったと思う。昨年他界した父の長姉だ。全員が90歳前後まで元気だった5人きょうだいだが、ついに叔父一人が残されるだけになった。高齢でもあり、かなり前から寝たきりのことが多かったので十分に覚悟はしていたが、やはり寂しい。車を運転中など、ひとりになると涙が出てくる。

 週末の葬儀であれば出席できると思っていたら、一昨日の夜に亡くなって、本日、日田市で葬儀を行うとのこと。突然のことで、大学での仕事などの調整ができず、欠席せざるを得ない。東京から合掌することにする。

 戦後すぐ、伯母は夫が亡くなったため娘二人を連れてしばらく実家に戻っていた。そこには、私の祖父母、伯母の家族三人、もう一人の叔母、そして私の両親と私が暮らしていた。田舎の9人家族だった。そのころ、伯母は私にとっていわばもう一人の母親だった。

 伯母は定年まで小学校の教員を務めた。物わかりのよい、やさしい伯母だった。きっと良い先生だったのだと思う。昔、一緒に歩くと、かつての教え子という人に良く声をかけられた。伯母は日田市の父の家のすぐ近くで暮らしていたので、私はもちろん、妻も子どもたちもずいぶんと面倒を見てもらった。変人の多い父のきょうだいたちの中で、ひとりだけ親身になって母を気遣い、母の相談に乗ってくれてもいた。父と母も、伯母の二人の娘を自分の娘のように思っていた。

 今になって伯母の人生を考えてみると、若くして未亡人になり、仕事をしながら子どもを育てるにはいろいろなことがあっただろう。苦しいこと、迷うことの連続だっただろう。いつも優しくて理性的な伯母だったが、心の中に秘めていた思いもたくさんあっただろう。だが、最後は娘二人に囲まれての穏やかで幸せな日々だったと思う。

 数年前、ザルツブルグ音楽祭にでかけていたとき、伯母が亡くなる夢をみた。あまりにリアルな夢だったので、私は伯母の死を確信した。きっとあの世に旅立つ前にザルツブルグで音楽三昧の私のところにお別れに来てくれたのだと思った。ところが、日本からは連絡がない。家族に電話しても伯母の話は出ない。死んだと告げられるのが怖くて、こちらから伯母の話を向けることもできなかった。きっとみんなが気をつかって私に伯母のことを告げないのだろうと思っていた。

 だが、帰国してみると伯母に変わりはなかった。「夢のお告げ」など信じられるものではないことを思い知った。少なくとも私に霊感など少しもないこともわかった。本当にほっとした。伯母に会ったとき、その話をすると、死ぬ夢を知り合いがみるとむしろ長寿になるのだと喜んでくれた。私の出す本を楽しみにして読んでくれ、たびたびほめてくれた。

 最後に会ったのは、昨年、両親が東京に越した後、私が一人で家の整理に日田に戻った時だった。車椅子を使わなくても少しなら歩ける様子で、話し方もしっかりしているように見えたが、認知症が進んで様々なことを忘れているということで、私のことを十分に認識していたかどうか少し怪しかった。

 この3年ばかりの間に次々に私の親の世代の親族が亡くなった。いまさらながら、人の死、人の生について考えてしまう。

 夜、父の親戚で私の子どものころのなじみの女性から電話をいただいた。私は日田市に暮らしていた後、同じ大分県内の中津市に引っ越し、そこで4年と少しを過ごしたが、その時代にすぐ近所に住んで行き来していた。百合ちゃんと両親は呼んでいた。当時、明るくてきれいな若奥さんで、私は大好きだった。私が東京新聞に書いたエッセイ(「特別な存在でなくなること」というタイトルで、高齢になって居場所を移して亡くなった父のことを記した)が、九州でも読者の多い西日本新聞に掲載され、それを読んで懐かしく思って電話をくれたのだった。父の思い出話に涙を流した。伯母が亡くなったことを知らせた。あの頃、若くてきれいだった「百合ちゃん」も80歳とのこと。相変わらず明るくて元気で、声だけだとまさか80歳とは思えない。

・・・電話を切って、また生について死について老いについての考えが頭の中を巡った。

|

« ロッシーニのオペラ映像「幸運な間違い」「アルジェのイタリア女」「セビーリャの理髪師」 | トップページ | マリインスキー 「エフゲニー・オネーギン」、第3幕に感動 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/64346219

この記事へのトラックバック一覧です: 伯母の他界、懐かしい人からの電話。:

« ロッシーニのオペラ映像「幸運な間違い」「アルジェのイタリア女」「セビーリャの理髪師」 | トップページ | マリインスキー 「エフゲニー・オネーギン」、第3幕に感動 »