新国立「ワルキューレ」 バイロイトレベルの見事な上演だったが、感動しなかった
2016年10月8日、新国立劇場で「ワルキューレ」をみた。歌手陣は素晴らしかった。バイロイトに一歩も引けを取らない豪華さ。
ジークムントを歌うステファン・グールドは相変わらずの馬力と美声。私はバイロイトでも何度か聴いたが、その時と同じほどホール中に響き渡る声だった。ヴォータンのグリア・グリムスレイも最高レベル。声に気品があり、容姿もヴォータンにふさわしい。最後の告別の場面は実の堂々たる歌だった。ブリュンヒルデのイレーネ・テオリンもまさしくバイロイト級。一時期、ちょっと不調を感じたことがあったが、今日は美しい声も伸びて素晴らしかった。
そのほか、フンディングのアルベルト・ペーゼンドルファーも見事な声。そして、特筆するべきはジークリンデのジョゼフィーネ・ウェーバー。外見はかなり太めだが、清らかな声で実にチャーミング。フリッカのエレナ・ツィトコーワも威厳のあるしっかりした声。素晴らしかった。ワルキューレたちを歌う日本人歌手たちも実に立派。きっと個の中から近い将来、ブリュンヒルデやジークリンデを歌う歌手が出てくるのだろう。
だが、実を言うと、歌手が素晴らしいわりに私はそれほど感動できなかった。飯守泰次郎の指揮はまったく媚びを売ろうとしない正統派の演奏。そして、きわめてテンポが遅く、じっくりと聞かせる。これがマエストロの本格的ワーグナーなのだと思うが、私としては、もう少しテンポを上げて、もっと激しくうねらせてもよいのではないかと思った。第一幕の「春」の部分で、もう少しサービスしてほしい。
そして、ゲッツ・フリードリヒの演出も、確かに音楽にぴったり合ってはいるが、現在の演出のあり方からすると少々古めかしい感じがしてならない。ゲッツ・フリードリヒが切り開いて現在の演出が存在するのだと思うが、今となっては、これまで何度も見てきた演出に思えてしまう。
東京フィルハーモニー交響楽団による演奏は、ところどころ金管楽器のミスがあったが、全体的にはとてもじっくりと美しい音を聞かせてくれた。
全体的に素晴らしい上演だったと思う。しかし、これまで私は、「ワルキューレ」を見ると、必ず涙に暮れてしまうのだったが、今回は演奏の見事さに驚きながらも、涙に暮れることはなかった。
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コメント
http://hopewith.jp/
初めまして。突然の投稿の失礼お許しください。以前高橋薫子さんの事をお書きになられていたので、添付のコンサートをご紹介させてください。今とても話題の丹下健三の最高建築の東京カテドラル大聖堂でこのメンバーによるコンサート。これだけのメンバーが集まる事はプロのエージェントでは不可能といえるのではないでしょうか。ぜひともご来場をお待ちしております。とても楽しい、心暖まるコンサートです。
ホープウィズチャリティーコンサート実行委員会
投稿: hopewith | 2016年10月 9日 (日) 02時45分
同日のオペラを鑑賞しました。東京フィルは、最高レベルの演奏でした。昨年の新国立の「ラインの黄金」とは比べようのないほど素晴らしい演奏でした。これまでの日本のワグナー演奏史に残るものだと思いますよ。
投稿: アナログおやじ | 2016年10月 9日 (日) 23時02分
hopewith 様
お知らせいただき、ありがとうございます。
おっしゃる通り、素晴らしく豪華なコンサートですね。高橋さんはとても好きな歌手です。あいにくその日は予定が入りそうなのですが、時間が合えば、ぜひとも聞かせていただきたく存じます。
投稿: 樋口裕一 | 2016年10月11日 (火) 00時13分
アナログおやじ 様
おっしゃる通り、世界最高レベルの素晴らしい上演だったと思います。私の「ツボ」にはまらなかったのが残念です。
投稿: 樋口裕一 | 2016年10月11日 (火) 00時14分