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グルベローヴァのオペラの名場面に興奮

 2016年11月9日、アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利し、世界の先行きが不透明になった日、私はのんきにオペラシティ・コンサートホールで、グルベローヴァのオペラ名曲コンサートに出かけた。いやはや興奮した。このところ、コンサートやオペラに行くごとに、その素晴らしさに圧倒されているが、今日もまた名人芸に酔いしれた。

 私が最初にグルベローヴァの実演に触れたのは、忘れもしない、1980年のウィーン国立歌劇場引っ越し公演のときだった。ベーム指揮の「ナクソス島のアリアドネ」でグルベローヴァはツェルビネッタを歌った。それ以前からFM放送によるザルツブルク音楽祭の録音によってすごさを知っていたが、実演をきいて天地がひっくり返るくらいびっくりした。すさまじい声だった。ふだん、私は演奏家のサインをもらうことはないのだが、その時ばかりは東京文化会館の出口待ちしてサインを求めた。

それから36年。今、グルベローヴァは70歳だという。きっと昔ほどの声の力はなくなっているのだろう。音程が決まるまでにふらふらすることが何度かあったが、全盛期にはこんなことはなかったのだろう。高い声がかすれることも何度かあったが、これについても全盛期にはもっともっと美しい声が響き渡ったのだろう。だが、たとえそうであっても、あまりに凄まじい。まさしく奇跡としか言いようがない。70歳とは思えない。現在、これほどの声と歌唱力を持っているソプラノ歌手は世界に数えるほどしかいないだろう。いや、もしかすると現在でも世界随一のコロラトゥーラ・ソプラノかもしれない。

曲目は前半に、ドニゼッティの「ランメルモールのルチア」と「ロベルト・デヴリュー」から、狂乱の場など。後半はベッリーニの「清教徒」第2幕と「異国女」より。アンコールは「トゥーランドット」のリューのアリアと「こうもり」のアデーレのアリア。オーケストラはプラハ国立歌劇場管弦楽団、指揮はペーター・ヴァレントヴィッチ。

十分に美しい声がビンビンとホール全体に響き渡る。私は6列目中央で聴いたが、軽い耳鳴りがするほどの威力。昔ほどではないにしても、今でも十分に声がコントロールされている。そして、それ以上に、感情表現、音楽の盛り上げが素晴らしい。昔、アリア集のCDを聴いた時、声の威力だけで勝負しているのを感じたが、今では声の威力にまして表現力があり、観客を引き込む力がある。時々、私はあまりの美しさに陶然となった。人間にこれほどの声が出せるのか・・・というプリミティブな驚きを改めて覚えた。オーケストラも実に良かった。ぴたりとグルベローヴァに寄り添っていた。

私はドイツ音楽びいきなので、アンコールでアデーレのアリアを歌ってくれたのは実にうれしかった。まさしく声の快楽。歌の愉楽。

 今年の秋は、オペラの面で最高に充実している。毎日のように私は音楽に興奮している。こんなに幸せでよいのだろうかと思ってしまう。

 ああ、それにしてもトランプが大統領になったら世界はどうなるのか。帰りの電車の中で現実に戻って憂鬱になった。

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