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東京二期会「ナクソス島のアリアドネ」 世界最高の歌劇場に匹敵するのではないか!

 2016年11月23日、日生劇場で東京二期会公演「ナクソス島のアリアドネ」をみた。9月の東京二期会による「トリスタンとイゾルデ」公演でも思ったことだが、日本人歌手たちによってこれほど高レベルの「アリアドネ」が見られたことに驚嘆した。先日、ウィーン国立歌劇場公演のこのオペラを見たばかりだったが、それに匹敵する素晴らしさだった。

 シモーネ・ヤングの指揮する東京交響楽団がまず素晴らしい。実にしなやかで繊細な音。ウィーン国立歌劇場のヤノフスキのきわめて男性的な指揮によるのとは正反対の優美な音楽になっていた。確かにこの方がこのオペラにふさわしい。しかも、私は3列目で見たのだが、歌手の声量やテンポに合わせてオケをコントロールしている様子がよくわかった。さすが!

 歌手陣の見事さにも圧倒された。プロローグの部分での作曲家を歌う白𡈽理香が初々しくしっかりした声でこの難しい役をリリカルに、しかも率直に歌っていた。ほれぼれするような作曲家だった。執事長の多田羅迪夫の語りもいいし、音楽教師の小森輝彦、舞踏教師の升島唯博もまったくもってウィーンに歌手たちに劣らない。

 オペラが始まってからも、ニンフたちも三人とも美しい声でアンサンブルもいい。ハルレキンの加耒徹、スカラムッチョの安冨泰一郎、トゥルファルデンの倉本晋児 、ブリゲッラの伊藤達人、いずれも動きもいいし声も出ている。素晴らしい。これらの歌手もウィーンに決して劣らない。

 そして、やはり圧倒的だったのはアリアドネを歌う林正子。ヴィブラートの少ない清澄な声による「清らな国」のアリアに私は感動した。私の大好きなアリアだ。バッカスとの二重唱も素晴らしかった。そのバッカスを歌う片寄純也も見事に張りのある美声。この役も最高の難度だと思うが、実にうまい。ツェルビネッタの髙橋維はチャーミングな容姿と澄んだ高音が素晴らしい。大劇場で歌うには声量不足だと思うが、日生劇場くらいの大きさのホールでは十分に響き渡った。

 一言で言って、本当に素晴らしかった。ドイツ語の発音も、少なくとも私の耳には完璧に聞こえた。このままこの歌手たちがウィーンで歌っても、そのまま大喝采を浴びるだろう。東京二期会の歌手たちは今やそのレベルに達していることを改めて知った。

 演出はカロリーネ・グルーバー。これもとてもおもしろかった。プロローグは現代の歌劇場の地下駐車場前と思われる場所で展開される。新国立劇場にそっくりだと思った。オペラの部分はレストランのような場所。道化役者たちの動きが一つ一つ実にセンスがいい。最後、アリアドネとバッカスの二重唱の場面で、背景はシュールレアリスムの絵のようなファンタジーの世界になる。夢の中から出てきたような色とりどりの様々な人物が登場し、思い思いの行動をする。それが実に楽しい。最後、登場人物全員が倒れる。神であるバッカスも倒れる。いいかえれば、すべてが永遠ではなく死を迎えるということだろう。だが、最後の最後、黙役のキューピッドが観客に向かって愛の矢を向ける。愛は死なない。

 作曲家は「神聖なるもの」「永遠なるもの」「静止したもの」を求めてアリアドネを作る。だが、そこに「俗なるもの」「刹那のもの、つかの間のもの」「動き続けるもの」であるツェルビネッタが入りこむ。永遠なるもの、神聖なるものがすでに失われたこと、現代にはそのようなものは失われたことがわかってくる。それがこの「ナクソス島のアリアドネ」のテーマだろう。グルーバーは生というものを動き回り、死すべきものと捉えるが、そこに愛という永遠なものがあることを示してくれている。この解釈にも驚嘆した。

 今年はオペラの当たり年だった。いくつものオペラに感動した。今回の「ナクソス島のアリアドネ」が私が今年観る最後のオペラになるはずだ。オペラの当たり年の最後を飾るにふさわしい上演だった。

 

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