チョン・キョンファの自然体の無伴奏ヴァイオリンに感動
2017年1月28日、サントリーホールでチョン・キョンファのバッハの無伴奏ヴァイオリンのソナタとパルティータの全曲演奏を聴いた。素晴らしかった。二回の休憩を加えて3時間を超す長いリサイタルだったが、最後までチョン・キョンファの緊張感は途切れなかった。
出だしはあまり本調子ではないと思った。少し集中力を欠いている様子。パルティータ第1番の途中で咳き込んで中断。客席から「ノー・プログレム」の声が聞こえた。それに応じて観客席から拍手。そのせいかどうかはわからないが、その後どんどん調子を上げた。まさしく圧巻。
圧巻とはいっても、かつてのように激しく音楽に没入するわけではない。遊びの心があり、余裕があり、くつろぎがある。研ぎ澄まされた音で、余計なものは付け加えず率直に、しかもまっすぐに音楽に対する。自然体とでもいうか。しかし、音楽の本質に従って迫力にあふれる。「シャコンヌ」はとりわけ絶品だった。一つ一つの音が意味を持ち、だんだんと形を成していく。それが絡まったりほぐれたり。それが心を打つ。
パルティータ第3番も素晴らしかった。平明で透明で深く心の奥に入りこむ音楽。全体的に、私はソナタよりもパルティータのほうに感銘を受けた。東洋的というのだろうか。西洋的にごてごてした装飾の多い世界ではなく、本質だけ残したかのような演奏。パルティータの演奏に一層そのような自由な精神があふれるような気がする。これがチョン・キョンファのたどり着いた境地なのだろう。
数年前、チョン・キョンファのブラームスの1番のソナタとフランクのソナタを聴いて、少し失望した記憶がある。何をしたいのかよくわからないと思った。入魂の激しい音楽でもなく、かといって楽しい音楽でもなかった。が、バッハの無伴奏を聴いて納得した。なるほど、このような自然体で自由な音楽世界を描きたかったのだろう。やはり、このような音楽世界はロマン派の音楽よりもバッハでこそ表現できるのだと思う。
とても素晴らしい無伴奏バッハだった。心から感動。そして、満足。
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