ツェートマイヤーの無伴奏バッハに興奮!
2017年5月11日、トッパンホールでトーマス・ツェートマイヤーの無伴奏バッハ連続演奏の初日を聴いた。今日は前半に無伴奏ソナタ第一番と無伴奏パルティータ第1番、後半に無伴奏ソナタ第3番。驚異的な名演奏だと思う。自宅に帰った今もまだ興奮している。
ツェートマイヤーの名前はもちろんずっと前から知っていた。が、なぜか聴かず嫌いだった。ところが、一昨年だったか、武蔵野市民文化会館でカプリースを聴いて驚嘆。いっぺんに大ファンになって、その後、CDを買い込み、繰り返し聴いてきた。そして、今回バッハの無伴奏曲が演奏されるというので、大いに期待してトッパンホールに行ったのだった。そして、期待以上の感動を得た。
この人の演奏をどう表現すればよいのだろう。きわめて自由な表現。奔放な演奏といってもよいかもしれない。今まで聴いてきたどのヴァイオリニストとも違って、アクセントが強かったり、異常に弱音だったりする。だが、まったく形が崩れない。きわめて正確な音程。きわめて知的な構築。だから、これほど自由に演奏しながら、まったく下品でなく、むしろきわめて高貴な雰囲気が漂う。一つ一つの音に勢いがあり、それが前後の音と絡まって自然に音楽が流れていく。聴くものとしては、ただただ感動し、音の世界に魂を動かされる。
パルティータ第1番のドゥーブルの表現に驚いた。アルマンドのドゥーブルはまるで囁くようにずっと弱音で演奏した。クーラントのドゥーブルではうってかわって明るく演奏し、サラバンドではふたたび囁くように。そしてブーレではむしろ前半よりも華やかに。そのあたりの構築の仕方が実に理にかなっている。突飛なことをしているように見えて、ひとつひとつにうなずける。単におそろしく上手なヴァイオリニストというだけでなく、おそろしく知的な思想家でもあることがよくわかる。何人もの現代作曲家がツェートマイヤーのために曲を書いているというが、ツェートマイヤーには現代作曲家を引き付けるだけの力があるのだろう。
私はバッハの無伴奏曲が大好きだが、時に退屈することがある。きっと良い演奏なのだろうと思いつつ、私にはついていけないと思うことがある。だが。ツェートマイヤーの演奏は波乱万丈でスリリングでまったく退屈しない。そうでありながら決してロマンティックというわけではなく、むしろ真正面からバッハを演奏している。これこそがバッハの世界なのだろうと納得させられる。
アンコールはパルティータ第3番のガヴォット(私は昔々、いやいやヴァイオリンを習わされていたころ、この曲の初心者ヴァージョンを弾いていた!)とソナタ第2番のアンダンテ。これらも素晴らしかった。
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