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河瀬直美監督「光」とソンタルジャ「草原の河」 「光」に涙した!

 河瀬直美監督の「光」をみた。素晴らしいと思った。カンヌ映画祭でパルム・ドールを獲得できなかったが、河瀬監督の最高傑作の一つだと思う。

前作の「あん」と同傾向の映画といえるかもしれない。

 かつての父の失踪という苦い思いをもつ女性(水崎綾女)が、障害者のモニターの協力を得て新作映画の視覚障碍者向け音声ガイドを作成しようとしている。ところが、かつてカメラマンとして活躍しながら目の病に冒されて、失明寸前の状態にある男性(永瀬正敏)が女性の作るガイドに不満を漏らす。それを契機に二人の触れ合いが深まり、対立をしながらも惹かれ合っていく。そして、最後には見事な音声ガイドが完成する。

大まかにはそのようなストーリーだが、まず河瀬監督のドキュメンタリー的な演出が素晴らしい。あまりに日常的で、あまりにリアル。そして、女性が故郷に帰るごとに描かれる、まるで精霊でも宿っているかのような木々、森などの自然。そして、生命そのものを宿すかのような光。その描き方に感動を覚える。

 この映画のテーマはタイトル通りに「光」だと思う。視覚的な「光」を失ってしまった男性が過去を振りほどき、未来に向かって生命の光を取り戻そうとする。それが、新作映画のラストシーンの音声ガイドを作ろうとして苦労し、やっと「光を浴びている」という言葉を見出す女性の状況と重なる。ともに自然の中の精霊の宿る光を見出そうとしている男女がすれ違いながら、最後に重なり合う。男性が女性の顔をいじりまわす場面に私は涙した。

 二人の主人公が心の動きを自然に表現している。実に魅力的。そして、作中で取り扱われる新作映画の主演と監督の役を演じる藤竜也の演技もあまりに自然で感動的。音声ガイド作成のリーダー役の神野三鈴も魅力的。そのほか、きっと素人と思われる視覚障害の方たちの語り、表情もなんと生き生きとしていることだろう。

 自然の中に聖なるものが宿り、その聖なるものが利己的でありながらも生を懸命に求めている一人一人の人間に分け与えられている。そのような河瀬監督の世界観が、かつての映画のように真正面からではなく、人間ドラマとして語られる。大いに感動した。

 ただ、不満だったのは私が見た新宿バルト9の音量。以前、何かの映画を見たときにも感じたが、あまりに音量が大きい。耳をつんざくような音。以前の経験を覚えていたので耳栓を持参した。この映画館は耳栓なしでは、私には耐えがたい。なぜほかの人はこんな大音量に耐えられるのか、日本人はそれほど音に鈍感になってしまったのかと嘆きたくなる。

 

 岩波ホールでチベット映画「草原の河」をみた。チベット人の監督ソンタルジャの作品。父親が行者になって(おそらく若いころ、中国政府の強制によって僧でいられなくなり、その後、許可されたために再び僧にもどったということだろう)母の死に目にも会おうとしなかったことを許せずにいる男とその妻子を中心とした物語。父親に対するわだかまりから、自暴自棄になり、周囲の反対を押し切って冬のうちから夏場の牧草地に行き、妻子を巻き込んで羊の世話を始める。6歳の子どもの演技が光る。チベットの大自然の中でのテント生活の過酷な日常が描かれる。映像美とゆっくりした時間は心地いい。

 とはいえ、実は私は男の後先を考えない行動にも、子どもの無邪気な行動にもあまり共感できなかった。ラストに語られるクマのぬいぐるみについての子どもの語りも少々陳腐に感じた。私のこれまで経験、そして現在の生活実感からはあまりに遠い。映像美とチベットの生活の描写に惹かれながらも少々退屈した。

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コメント

樋口様
私は8月13日~19日まで旅に出たのですが、そのとき帰りの飛行機で「光」を見ました。繊細な映画ですね。感動しました。飛行機の中なので、たとえば葉のそよぎなどの自然音は聞えませんでしたが、画面を見ているだけでも、十分にその良さが分かりました。

投稿: Eno | 2017年8月22日 (火) 17時18分

Eno様
コメント、ありがとうございます。
ブログ、拝見しました。ザルツブルクに行かれてたんですね!「ヴォツェック」「ムツェンスク郡のマクベス夫人」ともに、大いに惹かれて、行きたいと思っておりました。が、家庭の事情でウランバートル3泊4日で我慢したのでした。
「光」、素晴らしいですよね。グランプリを取っていたら、もっともっと日本でも話題になったと思うのですが、残念です。これからの河瀬監督の活躍が楽しみです。

投稿: 樋口裕一 | 2017年8月24日 (木) 00時55分

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