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パナヒ監督とトルナトーレ監督の数本の映画DVD

 大学をやめたら時間を持て余すだろうと思っていたのだが、いつまでたっても暇にならない。5月初めまでは本の締め切りに追われていたし、その後は東進ハイスクールでの収録の準備や講演などで忙しかった。しかもその間にブータン旅行をしていた。先週あたりからやっと締め切りに追われなくなって、映画やオペラの映像を見る時間が取れた。

 イランのジャファル・パナヒ監督とイタリアのトルナトーレ監督の映画を数本みたので感想を記す。


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ジャファル・パナヒ監督「これは映画ではない」 2011年

 京都でたまたまこのパナヒ監督の「人生タクシー」をみて、関心を持った。これは「人生タクシー」よりも前の作品。イランで反体制的な映画を作ったかどで逮捕され、映画製作禁止を言い渡され、控訴審の判決を待っている間の監督自身の状況を描いている。映画撮影が禁じられているために、カメラはマンションから一歩も出ない。ほとんどがパナヒ監督の室内。登場人物も監督自身のほかには撮影する友人と、最後ごみを集めに来る学生くらい。ただ、映画を撮れずに室内でシナリオを読んだり、煩悶したりする監督を追いかけただけの映画。なるほど、「これは映画ではない」と当局に申し開きできるかもしれない。

しかし、そのような八方ふさがりながら、このような映画を撮ることによって現状を生々しく描いている。その力量たるやすさまじい。ただ、おもしろかったかといわれると、それほど楽しんだわけでも感動したわけでもない。

 

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ジャファル・パナヒ監督 「チャドルと生きる」 1995年

 「人生タクシー」「これは映画ではない」よりも前にパナヒ監督が作った、これはいわば世界への出世作。一言で言えば、イラン社会で女性として生きることの苦しみを描いているといってよいだろう。

生まれた子供が女の子ということでみんなが落胆する場面に始まり、映画は刑務所を脱獄して来たらしい三人の女性を追いかけながらイラン社会を描いていく。戦後イタリアのネオ・リアリスモ映画を思わせるところがある。演じている人たちのほとんどが素人らしい。だが、イタリア映画以上にリアリズムに徹している。

脱獄した女性たちの人生をドラマとして描くのではなく、一人の撮影者=監督が脱獄した三人を追いかけるうちに、そこにかかわった別の女性へと関心を移し、今度はその女性を追いかけるというように進行していく。しかも、登場するのが、あまりきれいでない女性たちであり、刑務所仲間の女性たちが中心であるだけにいらついていたり、禁煙の場所でタバコをほしがったりするので、見ているものは感情移入できない。監督は情緒に訴えるのではなく、もっと突き放してイラン社会の真実を見つめようとしている。

女性たちがどのような罪を犯したのか、なぜ、どのように脱獄したのかは明かされない。が、女性たちのおかれている状況を見ていると、おそらくほかの社会では罪とみなされないようなことで罪を問われたのだろうと推測される。

決して好きな映画ではないが、かなり衝撃的な映画だ。

 

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ジュゼッペ・トルナトーレ「海の上のピアニスト」 
1998

「ニュー・シネマ・パラダイス」のトルナトーレ監督の映画。「ニュー・シネマ・パラダイス」はとてもおもしろかったが、私の好きな作風の監督ではないと勝手に思い込んでこれまで敬遠してきた。

豪華客船の中で育ち、世界の名手としてのピアノの腕を持ちながら、船の中で演奏するだけで、一度も陸に上がらなかった男の物語。以前、テレビで見た記憶がある。前にみた時も思ったが、私はどうもリアリティを感じない。まずこんなピアノの技巧を自己流で身に着けられるわけがないだろう、というきわめて現実的な疑問を抱いてしまう。それに、陸に上がらない名ピアニストという設定に人生の深みをあまり感じない。そして、トランぺッターを狂言回しにした物語展開も古臭い気がする。よくできた映画だと思うが、私はそれほどの名画とは思わない。

 

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ジュゼッペ・トルナトーレ 「マレーナ」 
2000

同じトルナトーレ監督の映画だが、これは名作だと思った。

 シチリアの小さな町でとびっきりの美人で色気たっぷりのマレーナ(モニカ・ベルッチ)。町中の男が欲望を抱き、主人公の少年も憧れる。少年から大人になろうとしている若者の目を通して、イタリアの第二次世界大戦への参戦から戦後までのシチリアの状況を背景に、時代に翻弄されるマレーナの姿を描く。ファシスト政権、その敗北、ドイツによる占領を経て連合軍を歓迎するという、イタリアの歴史的経緯のままに流される庶民、男心をそそる女性に嫉妬する女たち、それに抗して孤高を守ろうとしながらも、夫の戦死の報によって身を滅ぼしてしまう女性、女性に欲情しながら見守る少年。ユーモア交じりに語られるが実にリアル。戦死とされていた夫が帰還し、最後には誇り高く生きようとする夫婦の姿も感動的。トルナトーレ監督の語り口のうまさに圧倒された。

 それにしても、モニカ・ベルッチはすばらしく「いい女」! その昔、イタリアのどこかの町(たぶんローマのどこかだと思う)で2階のレストランから外を見下ろしていたら、マレーナのような「いい女」が歩いてきた。その近くにいたイタリア男たち10人ほどがその女性にすぐに気づき、次々と5人ほどが近寄って声をかけ、「ナンパ」していた。話には聞いていたが、イタリア男は本当にそのように行動するのに驚いた。映画の中の場面は必ずしも大げさな表現ではないのだと思う。

 

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トルナトーレ監督 「題名のない子守唄」 2006年

「マレーナ」に続いて、これもとてもおもしろかった。ただ、見ていてちょっと辛い。「マレーナ」はヒロインのマレーナの人生はかなり辛くても、ユーモラスなタッチと、マレーナを見つめる少年の存在に救いがあるが、「題名のない子守唄」はずっと深刻な状況が続く。しかも、息を詰めるようなサスペンスもある。これまで見たこの監督の映画とかなりタッチが異なる。とはいえ、それぞれの場面が実にリアルで、監督の語り口があまりにみごとなので、ぐいぐいと引き込まれ、ヒロインのイレーナにいやおうなしに感情移入させられる。ラストシーンではかなり感動した。

 性の奴隷として地獄のような日々を送ったウクライナ女性イレーナが生き別れた自分の娘を探してイタリアに来て、何とか娘のそばで暮らそうとする。イレーナを演じるクセニア・ラパポルトがとても美しく、とても魅力的。演出力でもトルナトーレ監督の手腕は素晴らしい。

 

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トルナトーレ監督 「鑑定士と顔のない依頼人」 
2013

 アッという結末が待ち受けているとのことなので、期待してみたが、かなり予想通りの結末だったので、ちょっと拍子抜け。しかも、いくらなんでも無理があるような気がする。

 とはいえ、さすがトルナトーレ監督。主演のジェフリー・ラッシュも、主人公の友人役のドナルド・サザーランドも実にいい味を出している。映像も魅力的で、最後まで引き付けられてみる。また、屋敷の向かい側にあるカフェで聞こえてくる数字の羅列が最後に意味を持ってくるところなど、語り口の巧みさには脱帽。

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