岡田博美 異次元の音楽世界
2017年6月8日、武蔵野市民文化会館小ホールで岡田博美ピアノリサイタルを聴いた。曲目は前半にピエルネのパッサカリアop.52とベートーヴェンのピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」、後半にマラフスキの「ミニチュア」、ドビュッシーの「子供の領分」、リストの「ドン・ジョヴァンニの回想」。ピエルネとマラフスキはまったく知らない作曲家だが、とてもおもしろい曲だった。
すべてに岡田博美の美学が貫かれている。驚いたのはベートーヴェンとドビュッシー。聞きなれたベートーヴェンやドビュッシーではない。人によっては強い抵抗を感じるかもしれない。
私たちの聞きなれたベートーヴェンのドイツ的なごつごつしたドラマがない。まるでリストのよう。しかも、いわゆる外面的で派手なリストではなく、緻密な音の洪水によって12音階的と言えるような厳しくも怜悧な音楽世界を構築したリスト。一度すべての音を脱構築して再び構築しなおしたような音楽だった。感情を排して、ただただ音だけによる世界を作り上げたとでもいうか。音楽が大きく盛り上がるが、情熱的とかロマンティックとかいうのではなく、ただひたすら音の世界が爆発する。
ドビュッシーにも同じようなものを感じた。俗っぽさがなく、一つ上のレベルの音楽世界を築いている。アンコールの最後に演奏された「月の光」も怜悧な知性と澄みきった響きによって独特の世界を作りだしている。
とりわけリストの「ドン・ジョヴァンニの回想」は圧巻。「ドン・ジョヴァンニ」のアリアをもとに自由にアレンジされ、これでもかこれでもかと音の世界が繰り広げられる。感情を歌っているのでも情熱を叩きつけているのでもない。音の色彩によって展開される万華鏡のような世界。それが凄まじい。
アンコールはダカンの「カッコウ」、ショパンの「革命」エチュードと、先ほど書いた「月の光」。ポピュラーな曲なのだが、まったく違った響きがする。
岡田さんはもはやベートーヴェンやショパンやドビュッシーを奏でるというよりも、自分の音の世界を作りだすという境地に達している。驚くべき音楽世界だと思った。
2013年の9月、私が指導していた多摩大学のゼミの活動として、大学のオープンキャンパスの特別コンサートに岡田さんにおいでいただいたことがある。リストによる「タンホイザー」序曲をはじめ凄まじい演奏を披露していただいた。岡田さんのような世界的なピアニストに来ていただけて大変光栄だと心から思ったが、本日、改めて、岡田さんはとてつもなく偉大なピアニストだということに気付いた。今日も凄いものに触れさせてもらった。
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