天津の二日間
昨日(2017年7月19日)から天津に来ている。今年に入って月に一回程度の海外旅行をしているが、今回は天津にした。
旅の場所に天津を選んだ理由は三つある。第一の理由、それはマイレージを消化するのに最も都合がよかったということだ。思い立ったのが遅かったためか、ほかの都市はすでに予約でいっぱいだった。中部空港経由の天津だけはまだ予約できた。
第二の理由は、多摩大学で天津財経大学の交換留学生と何人も付き合ってきたことだ。私のゼミに入ってくれた留学生もいた。天津ってどんなところだろう、天津甘栗と天津丼くらいでしか知らないけれど・・などと思っていた(ついでに言うと、甘栗も丼も実際には天津が名物ということではないらしい)。三つ目の理由というのは、昨年は広州、先月は上海に行って中国の躍動を目の当たりにしたが、もう少しほかの都市を見てみたいと思った。
1日目(7月19日)
19日の朝、羽田を出て中部空港経由で、午後、天津濱海空港についた(飛行機の中では、「君の名は。」を初めてみた。中国語字幕がついていたので煩わしかったが、とてもおもしろいと思った)。空港から出て中国国内に入るときにも赤外線の荷物検査を受けた! もしかして空港出口ではなく、出発口に迷いこんでしまったのかと思った。おそろしく厳重な検査!
空港は上海や広州に比べると客も少ない。時間帯によるのかもしれないが、入国審査も列を作ることもなくスムーズに進み、外に出た。地理的な無知をさらすようで恥ずかしいが、私は天津というのは少なくとも東京よりは涼しいのだろうと思っていた。ところが、このところ37度くらいまで温度が上がっていたらしい。覚悟していた。覚悟していたほどではないが、暑い。33~3度はあるようだ。
中国ではタクシー料金が安いので、少し離れたところにあるタクシー乗り場に急いだ。若い運転手さんのタクシーに乗りこんだ。上海の時と同じように、エクスペディアで予約したホテル名を英語で口にして、印刷した用紙を渡しても運転手さんは理解してくれなかった。英語の文字を読めないようだ。ワン・ツー・スリーといったレベルの英語もまったく通じない。運転手さんは車を降りてタクシー乗り場の守衛のような人に尋ねて、やっと出発。しかし、到着といわれて、料金を支払って外に出てみると、私の予約したホテルではない。ただ、私のホテル(日航ホテル)はそこからすぐだったし、私もmaps.meというアプリ(wifiなしで使える地図。ナビにもなる)で確認していたので、それを運転手さんに見せて、500メートルほど余計に走ってもらった。その分、10元追加料金を取られた。
英語が全く通じない人がかなりいる。「ハウマッチ」さえも通じない。内気というわけではない。中国語でガンガンとしゃべっており、なんとか話をしようと思っている人が、基本的な英語を知らない。どういうわけだろう。中国ではしっかりと英語教育をすると聞いていた。私が教えた中国人留学生たちも英語がかなりできていた。
タクシーから見えた光景は、上海や広州を少し小規模にした感じとでもいうか。近代的、あるいは未来的な高層建築物があり、高層マンションがあり、道路は整備され、良い車がたくさん通っている。交通マナーは東南アジアに比べれば悪くない。特に貧しい地域は目に入らない。取り残された雰囲気のある街もあるが、それでもそれほどの貧しさは感じない。
チェックインの時間になっていなかったが、部屋に入って一休みして、ホテルの日本人スタッフ(少々古い作りで、室内のエアコンが一括管理であるために温度調節ができないなどの不便がないでもないが、感じのよいホテル。日本人スタッフもとても親切)に地図をもらって周辺を歩いてみた。南京路から近くの道に入ってみた。日本語にはない漢字なので、変換できない。似た漢字を当てておくと、歩いたのは、管口道や浜江道、西宇道だ。ブランド店や百貨店やチェーン店(マクドナルドやユニクロなどの店がある)があり、人々が買い物を楽しんでいた。上海や広州に比べるといくらか静かな雰囲気がある。人もそれほど多くないし、みんながそれほど大声で話しているわけでもない。おしゃれな人が多く、30年ほど前とは逆に、化粧の薄い人、あまり大胆な色合いの服を着ていない人をみると、日本人ではないかと感じる。スマホを見ながら自転車、バイクに乗っている人が異様に多い。赤信号を堂々と渡っている歩行者(ほとんどが高齢者)が多いのにもびっくり。これも一つの文化なのだろう。
1時間半ほど歩きまわったが、あまりに暑くて冷房に当たりたくなった。セブンイレブンでお茶(甘いかどうかを確かめて買おうとしたが、店員さんはまったく英語が通じなかったのであきらめて買ったが、やはり甘い緑茶だった)などを買って、ホテルに戻り、また休憩。
ついでに言うと、セブンイレブンがやたらと多い。上海は確かファミリーマートが多かったが、何かの事情でそうなっているのだろう。品ぞろえは日本とさほど変わらない。日本の製品、日本でもよく見かける品も多いが、そのようなものは日本と同じかそれ以上に高い。中国製品になると、日本の半額か三分の一くらいになる。それなのに、多くの人が日本で見かけるのと同じような商品(ポテトチップ、チョコレート、お菓子など)を買っている。
夕方からタクシーで鼎泰豐(ディン タイ フォン)という有名レストランに食事に行った。多くの客が車で集まるような有名店らしい。日本人の客もいるようで、日本語も聞こえてきた。小籠包などをお腹いっぱい食べた。とてもおいしかった。
何はともあれ、海外の初めての街を歩くのは楽しい。観光地に行くまでもない。人々が歩いているところを歩くだけで、ほんの一端かもしれないが、その土地を感じることができる。それが好きでこれまで旅をしてきた。
2日目
朝、早く目が覚めた。しばらくぐずぐずしていたが、8時近くになってホテルの外を歩いてみた。
まず、全体が煙っている感じ。大気汚染だろうか。霞がかかっているようで、少し離れたところにある高層建築物がうっすらしている。通勤客が大勢歩いている。自転車(レンタル自転車を使っている人が多いようだ。なかなか便利そう。スマホをかざすとカチッという音がして鍵が外れるシステムのようだ)の人も多い。
繁華街の裏道を歩いてみた。小さな庶民的な店が並んでいた。パンや惣菜、ミルクなどを買う人が大勢押し掛けている。現代的な建築物の裏でこのような生活が行われているのがよくわかる。小さな公園があったので入ってみた。お年寄り(といったも、私よりも年下の人のほうが多かったのかもしれない)が、太極拳のようなことをしたり、フォークダンスのようなものを踊ったり。ジョギングをしている人もいる。
ホテルでの私の宿泊プランは朝食なしだった。中国ですごすのに朝食をホテルで食べることもあるまい、外でいくらでもおいしい地元の料理を食べられるだろうと思って、あえてそのプランにしたのだった。が、いざ、歩いてみると、庶民的な店に食欲をそそられながらも、中に入る勇気がない。不衛生なもの、危険なものが使われているかもしれないという思いがある。やはりホテルで食事をししようかと思っていた時、町の一角に「李先生」という中国人らしい男性の顔の入ったロゴマークのチェーン店らしい店を見つけた。ケンタッキー・フライド・チキンやマクドナルドの「パクリ」といえば、その通りだが、日本も一昔前はパクリばかりしていたのだから、それは当然のことだろう。チェーン店ならともあれそれほど不潔なことはしていないだろうと思って、粥と肉まんのセット(9元。日本円で150円程度かな?)だった。味のほうは特に美味しいわけではなかった。
いったんホテルに戻って、10時からある旅行会社を通じて依頼した半日観光ツアーに参加。といっても、今回も私一人だけ。ガイドさんは若い中国人男性。とても感じのよい、おとなしくて真面目な青年だったが、いかんせん日本語がうまくない。というか、ほとんど通じない。会話が成り立たなかった。しかも、あまり天津の地理や歴史にも詳しくなく、私が質問をしても、語学的な問題とともに知識的な問題もあってほとんど答えてもらえなかった。また、道に迷ったり、博物館があると知らなかったり。しかも、これまで経験した市内観光はすべて専用車だったのだが、今回はタクシーを使ってのツアー。タクシー代はすでに支払ったツアー料金(中国の半日ツアーとしてはかなり高額!)に含まれているということで新たに請求されることはなかったが、そのせいか、どうもガイドさんはタクシー代金を節約しようとしているようで、「どこか行きたいところはありますか」と尋ねてくれたのはいいが、私が行きたい場所を答えると、「そこはちょっと遠いので」と渋る始末だった。
それでも古文化街、静園(溥儀が過ごした館。表示の英文を読んだところ、溥儀は西洋かぶれの人物として批判的に解説されていた)五大道(旧イギリス租界の5つの通りの走っていたところ)、天津外国語大学を訪れ、庶民的なおいしいレストランにも連れていってくれた。
しかし、あまりに暑く、観光に疲れた。それに、このガイドさんではらちが明かないと判断して、早めにツアーを切り上げてもらってホテルで休憩した。
1時間半ほどホテル内で涼んで、気を取り直して、一人で出発。朝、ホテル近くを歩いている時、地下鉄の行き先に「天津財経大学方面」という表示を見つけた。「天津財経大学」という駅があるらしい。この大学の留学生を何人も教えてきたので、ついでだから大学まで行ってみようと思い立った。
ホテルを出ると、ますます暑くなっていた。16時過ぎに中心部の地下鉄駅の「現在の気温」の表示が38度になっていたので、おそらく私がホテルを出た時はもっと暑かっただろう。天津財経大学駅から大学まで歩こうと思っていたが、ちょっと大げさに言うと命の危険を感じるほどの暑さだった。これまで一度も経験したことのない暑さというか。40度は超えていたのではないか。すぐに地下鉄で引き返して、今度は天津駅に行ってみることにした。
ところで、地下鉄内でちょっとしたことが起こった。
私は66歳。日本では、一度だけ電車の中で席を譲られそうになったことがある。その時は、丁寧にお断りした。ところが、中国でたかだか合計で1時間ほど地下鉄に乗っている間(しかも、私が電車の中で立っていたのは合計15分くらいだと思う)に二度も席を譲られた。外国人だから席を譲られたわけではない。私はどこでも中国人に見られる(日本人の多い日航ホテルでも、ほかの日本人はスタッフに「おはようございます」と声をかけられているのに私は「ニーハオ」と声をかけられる)。だから、間違いなく私は老人と見られて席を譲れられたのだろう。大変心外だ。しかし、中国の人はなんと心優しいんだろう! 日本人となんという違い。中国人はマナーが悪く、席を奪い合うと一部で言われているが、まったくそんなことはないではないか! 心外に思いながらも、「中国人、あっぱれ!」と思ったのだった。
地下鉄駅に入るにも荷物検査を受けなければならなかった。天津駅に到着したが、国鉄の駅に入るにも荷物検査を受ける必要があるようで長蛇の列ができていた。駅を見物したいと思っていたが、恐れをなして、そのままホテルに戻った。
ホテルで一休みして、夕食に外出しようと思っていたが、暑い中を歩く気力がなくなって、ホテル内で食事した。天津の料理があるかと思っていたら、日航ホテルだけあって、和食が中心。牛丼を食べた。
ちょっと夏バテ気味。明日はほとんど観光はしないで、日本に帰る予定。
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コメント
中国に駐在している者です。いつも拝見しております。
足繁く中国を訪問されているようで、カルチャーショック・ギャップをお感じになられている様子、失礼ながら微笑ましく読ませていただきました。
英語ですが、ご指摘の通り中国の若い人は日本の学生よりも上手く話せると思うのですが、40代以上になると、その世代の英語教育がまだ整備されていなかったようで、全くダメです。運転手の多くは40代以上が多いので、現状は通じないとみてよいでしょう。今後数十年すれば、中国は日本よりも英語が通じる国になるかもしれませんよ。
地下鉄での件ですが、これは全くその通りで、この国は儒教の影響もあるのでしょうが、日本以上に年上を敬う考えが根付いており、どこの都市、地方でもみかける光景です。文革以降しつけや道徳観念が失われ、経済優先が人の道をないがしろにしたとも言われる中国で、この年上を敬う習慣が残っているのは、奇跡であると共に、素晴らしいことだと私も思います。
投稿: さすらい人 | 2017年7月21日 (金) 10時52分
さすらい人様
コメント、ありがとうございます。慣れない中国でうろたえらことがらをそのまま書きました。私はそれを何よりも楽しんでいますが、同時に、深い経験のある方から実態を教えていただけるのはとてもうれしいことです。
なるほど、儒教道徳は受け継がれているのですね。席を譲ることについては素晴らしいことです。
タクシーの運転手もセブンイレブンの店員も、いずれも私には20歳そこそこに見えました。若い人も英語が通じないので驚いたのでした。初頭教育をきちんと受けないまま、どこか辺境の地から天津に来たのではないかと疑ったのでした。
ところで、「さすらい人」というネームをつけておられるところから考えてワーグナー(あるいはもしかするとシューベルト)がお好きなのでしょうか。中国でクラシック音楽を聴くのはご苦労がおありのことと推察いたします。
投稿: 樋口裕一 | 2017年7月23日 (日) 10時44分