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ベロッキオ監督「甘き人生」 生身の人間の存在感

 有楽町スバル座でマルコ・ベロッキオ監督の最新作「甘き人生」をみた。大変な傑作だと思った。

 ジャーナリストのマッシモ・グラメッリーニの原作を映画化したものだという。母親は重病を苦に自殺するが、真相を知らされないまま育てられ、母の死を受け入れられずにいる少年。後年、ジャーナリストになって様々な死を目撃するが、母への思いから逃れられず、しばしば精神的に追い詰められる。新聞への読者の悩み相談への回答を書いたことから、母の死の真相を知ろうとし始める。

 私はまったくもって「マザコン」ではないので、実はこの主人公の気持ちがよくわかるわけではない(ついでに言うと、プルーストの「失われた時を求めて」は大好きな小説なのだが、どうも主人公のマザコンぶりには違和感を覚えて仕方がない。フランス文学、イタリア文学に親しみながら、しばしば描かれるマザコンや、それと重なり合う聖女マリア信仰に対して私はずっと納得できずにいた)のだが、映画を見ていくうちに主人公の気持ちを追体験していく。喪失感、代替物依存、死の誘惑がリアルにじっくりと描かれていく。まさしく生身の人間の心の中までが肉体の重みのような存在感を持って迫ってくる。

 主人公(大人になってからはヴァレリオ・マスタンドレアが演じている)の幼少期を演じるニコロ・カブラスマッシモの演技の見事さ(つまりは、ベロッキオの演出の見事さということでもあるだろう)に舌を巻く。幼少期の母と息子のツイストやかくれんぼなど、息をのむほどに美しい。

 相談に乗ってくれた女医(ベレニス・ベジョ)と愛し合うようになり、二人でツイストを踊る。母親の死から逃れられずにいた主人公が少しだけ吹っ切れかける。その場面が実に感動的。そして、真相を知る場面もまた実に切実でリアリティがある。すべての俳優がすばらしい。

原題は「Fai bei sogni」。映画の中で、母親が死を決意した後、眠っている息子に語り掛ける「よい夢を見なさい」という言葉がタイトルになっている。なぜ、フェリーニの「甘い生活」(ドルチェ・ヴィータ)を思い起こさせるような「甘き人生」というタイトルにしたのか、私には納得できない。甘い生活などどこにも描かれていないような気がするのだが。

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コメント

樋口先生、僕も全く同感です。邦題が酷すぎると思います。sweet dreams! ですよね。寝ている間になにがあったのか、ということ、そして人生はまさに甘い人生ではないからこそ、甘い夢を!が生きるのですよね。素晴らしい映画だけに、ちょっと理解に苦しむ放題で残念です。

投稿: 三浦安浩 | 2017年8月14日 (月) 13時53分

三浦安浩 様
コメント、ありがとうございます。三浦さんに教えていただいて、ベロッキオの名前を知り、今回も「甘き人生」をみたのでした。繊細で官能的な映像の美しさにそそられてしまいます。昔のデュラス原作、アラン・レネ監督の「ヒロシマ、わが愛」を「二十四時間の情事」という邦題にしたのと同じほど、ひどいセンスですね。このタイトルのために、誤解してしまって映画館に足を運ばない人がいるのでないかと気になります。

投稿: 樋口裕一 | 2017年8月15日 (火) 08時57分

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