二期会公演「ばらの騎士」はグラインドボーンの演出とかなり異なっていた
2017年7月27日、東京文化会館で二期会公演「ばらの騎士」をみた。
今回のリチャード・ジョーンズによる演出は、グラインドボーンで上演されたもの。私はグラインドボーン音楽祭のDVDを見て衝撃を受け、このブログに感想を書いた覚えがある。DVDでみた演出は、表現主義的で、しかも、それ以上にグラン・ギニョール的だった。つまり、どぎつく煽情的で挑戦的な演出だった。グラン・ギニョールというのは、19世紀末から20世紀前半にパリのグラン・ギニョール劇場で演じられたたぐいの見世物劇を言う。もともとはギニョール(人間芝居)だった。ここで上演された、血なまぐさく不気味な見世物をグラン・ギニョール風という。とりわけ第三幕はまさしく不気味な人形劇の世界が展開され、マルシャリンらの登場人物も人形劇風の動きをしていた。
ところが、今回見た二期会公演では、そのような様子はなかった。第二幕の初めのゾフィーが人形のような動きをしただけだった。むしろ、かなりまともな、つまりはあまり刺激のない演出だった。グラン・ギニョール的な激しい表現がみられると期待していたので、少々残念だった。グラン・ギニョールの伝統のない日本にそのような演出をしても好まれないという判断を演出家がしたのかもしれない。
歌手についてはとても高レベルだと思った。とりわけ、私はオクタヴィアンの澤村翔子に惹かれた。あまり男っぽい演技はしていなかった(演出家に従ったのだろう)が、芯の強いきれいな、そしてよくとおる声。元帥夫人を歌う森谷真理も、容姿を含めて満足のいくものだった。ゾフィーの山口清子もとてもきれいな声で好感を持った。「ばらの騎士」の三人の女性の役を日本人がこれほどのレベルで歌えるようになったことにある種の感慨を覚えた。そのほか、オックス男爵の大塚博章、ファーニナルの清水勇磨もとても健闘していた。マリアンネの岩下晶子、ヴァルツァッキの
升島唯博、アンニーナの増田弥生もとてもよかった。
ただ、実は私が少々不満を感じたのは、セバスティアン・ヴァイグレ指揮による読売日本交響楽団だった。ヴァイグレと読響がよくないはずがないので、きっとリハーサル不足なのだろう。精妙でもなく、かといってダイナミックでもなく、ちょっとバタバタした感じで、私にはどのような音楽を作ろうとしているのか良くわからなかった。びしっと決まらないまま最後の三重唱と愛の二重唱になった。もちろん、第三幕の後半はとても美しい音楽だったが、もっともっと感動させてもらえるつもりだった。ちょっと残念。
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