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ジャリリ監督の映画4本

 時間的な余裕ができて、自分のペースで仕事を進めている。9月中旬からは週に一日だけ多摩大学で非常勤の仕事をするが、それまでは週に一、二回の割合で大学の入試関係の仕事をするくらい。今年中にあと4冊の本を完成させる必要があるが、焦る必要はなさそう。

 イランの映画監督アボルファズル・ジャリリの映画DVD4本セットを購入して、見た。いずれも10歳前後の少年を主人公にした映画。簡単な感想を書く。

 

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「スプリング ~春へ」 1986年

 名作だと思った。イラン・イラク戦争の真っただ中。イラク軍に攻められた地域に住む少年が家族と別れて森の中で見知らぬ老人に引き取られて二人で暮らし始める。冬の森の中で暮らすうち、少年は徐々に自然の生活に慣れ、老人になじんでいくが、両親への思いを捨てきれない。冬の状況と、戦争の終わりとしての春が重なり合う。森が春になり、戦争が終わるのを待つ少年の気持ちが痛いほど伝わる。孤独な老人の少年への思いもよくわかる。そして、どこをとっても絵画になりそうな美しい映像。

 画面の右から左、左から右へと登場人物が移動する場面が多い。それをじっくりと撮影していく。自然の中での人間の営みという事実が印象付けられる。迷子になった少年を老人が見つけ出す場面、そして、最後の少年の育った地域がイラクにもどったラジオ放送を聴く場面は感動的だった。

 

「ぼくは歩いていく」 1998

 父親が薬の中毒でしかも兵役逃れようと子どもの出生届を出さなかったために戸籍を持たないまま育った9歳の少年を主人公にした映画。生活のためにいろいろな仕事をしているが、学校にも行けずにいるために読み書きもできず、身分証がないために仕事を続けられない。父は牢獄に入り、母も収容され、兄弟も助けてくれずに一人で仕事を求めてさまよう。時々、ドキュメンタリータッチになって監督が登場人物にインタビューする場面が入る。起承転結のある物語というよりも、けなげに生きる少年をずっと追いかけていく。

 イラン社会の現実、大人の犠牲になって苦しむ少年、大人と同じように過酷な労働をする子供たちが描かれる。とても良い映画だと思うが、主人公の少年が垢ぬけており、しかもセンスの良い色彩の服を着ているために、私はあまりリアリティを感じられなかった。感じのよい少年であり、演技も見事だが、あまりにお坊ちゃんぽい。

 

「ダンス・オブ・ダスト」 1998

 ほとんどセリフのない映画。しかも監督の要望により字幕を付けないという断り書きが初めに示される。昔の新藤兼人監督の「裸の島」に似た雰囲気。ただ、舞台は砂漠の中で、主人公は少年と少女。字幕がないだけでなく、説明のほとんどない映画なのでわかりにくいところがある。主人公の少年は孤児のようだ。大人に混じってレンガ作りの仕事をしている。季節労働者の娘である同年代の少女と心を通わせ、少女の手形の残ったレンガを大事にするが、雨期が来て少女は去っていく。孤児である少年は心の支えを失ってしまう。それを貧しく過酷な自然を背景に描く。

埃だらけの世界。ぼろをまとった子供たちが、大人に構われることなく、おもちゃもなしにただ走り回って遊んでいる。大人たちも砂だらけの世界でひたすら生活する。それだけで圧倒的な存在感がある。生命の原型を示しているかのよう。とても良い映画だと思った。

 

「トゥルー・ストーリー」 1996

 ジャリリ監督はある劇映画を作ろうとするうち、ある少年に出会って映画への出演を誘うが、その少年は足が不自由で出が必要だと知り、映画の方針を変更して、その少年のドキュメンタリーを作り始める。父親を亡くし、子どものころからたくさんの仕事をしてきた少年が、監督の力で手術を受けるまでが描かれる。どのくらい現実そのままなのかはよくわからない。そうした手法で、イランの現実、貧しい人々の生活、人間の生きざまを描いていく。

 ただ私としては、おもしろい試みだとは思いながらも、この少年を選んで出演を誘おうとすることについても、手術を撮影しようとすることについても、なぜ監督がこだわるのかよくわからなかった。最後に、手術が成功したことが字幕で知らされるが、やはりこれは大事なことなので映像で出してほしいと思った。私としては少々消化不良の一本だった。

 

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