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NHK音楽祭 パーヴォ・ヤルヴィ+N響の「ドン・ジョヴァンニ」に興奮した

20179月9日、NHKホールでモーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」(演奏会形式)を聴いた。NHK交響楽団、指揮はパーヴォ・ヤルヴィ。NHK音楽祭の一環。演奏会形式とはいえ、ちょっとした寸劇が入り、ドラマとして十分に堪能できた。

すべてにおいて現代最高水準。歌手陣は粒ぞろい。私はとりわけドンナ・アンナを歌うジョージア・ジャーマンとドンナ・エルヴィーラを歌うローレン・フェイガン、そしてドン・オッターヴィオのベルナール・リヒターを素晴らしいと思った。いずれも若くて容姿も美しい。ジャーマンはとても透明な声。フェイガンは成長でありながらもスケールが大きい。リヒターは、ドラマの流れとあまり関係のないアリアを歌うので影が薄くなりがちだが、これほど見事な声で歌われると説得力がある。ドン・オッターヴィオには悪の化身であるドン・ジョヴァンニの対比としての重要な意味があるのではないかと思った。

 レポレッロのカイル・ケテルセンもとてもよかった。見事な太い声、そして軽妙な演技。もちろん、ドン・ジョヴァンニのヴィート・プリアンテもよかったが、どんなドン・ジョヴァンニ像なのかがはっきりしなかった。悪を表に出すのか、それとも別のドン・ジョヴァンニ像なのかを明確にするほうが魅力が出ると思った。

 そのほか、騎士長のアレクサンドル・ツィムバリュク、マゼットの久保和範、ツェルリーナの三宅理恵も見事な歌。日本人二人は特筆するべきだと思った。これらの超一流の西洋の歌手たちにまったく引けを取らず、美しい声で歌っていた。三宅さんには10年ほど前、多摩大学の私のゼミの主催したコンサートで歌っていただいたことがある。そのころから素晴らしい歌手だったが、いまや日本を代表する大歌手だと思った。

そして、やはりオーケストラと指揮の素晴らしさについて語らぬわけにはいかない。

N響の実力を発揮してくれた。弦も管楽器も実に美しい。そして、ヤルヴィの指揮も躍動感にあふれ、ドラマティック。序曲からして、人間の暗部を抉り出すかのよう。ドンナ・アンナがドン・ジョヴァンニの「さらば」の声で犯人だと気づく場面ところや最後の地獄落ちの場面など、怖気を覚えるほどのシリアスでリアルな音だった。

ただ、音楽に強さがありすぎるために、レポレッロの軽みやおかしみが出ていないように思えた。父ネーメだったら、もっといたずらっ気を発揮してくれるのではないかと思った。おそらくパーヴぉは意識的にそのような遊びの部分を排除しているのだと思うが、私としてはそのような部分もほしい。

しかし、これほどの素晴らしい演奏を東京で聴けてとても満足。ザルツブルク音楽祭並みの名演奏だと思った。本日もまた大いに感動した。

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コメント

樋口先生もあの場におられたのですね。ご尊顔を拝したいと思っていたのですが、友人に会ってしまい、休憩時間は終わってしまいました。
そして公演の感想は先生のおっしゃるとおり。私も感動しました。モーツァルトのオペラを聞くなら、妙な舞台を見せられるより音楽に集中できる演奏会形式の方が素直に感動できそうです。ヤルヴィさんも舞台に束縛されない分、思いっきり自分の音楽を出せたのではないでしょうか。両幕の幕切れの迫力にそれを感じました。
歌手は皆さんすばらしかった。特にオッターヴィオは見事でした。先生のおっしゃるように、悪のドンジョヴァンニに対する善なる役柄なのだと、初めて納得できた思いです。特に声がよかったですね。
それに三宅理恵さん。確かに声は少し小さかったかもしれませんが、ツェルリーナの可憐さがよく表現されていて感心しました。
タイトルロールの評価は難しいところです。この役は我々男性から見ても惚れ惚れするような、圧倒的な存在感が欲しいです。どうしても昔映画で見たシェピの素晴らしさと比較してしまいます。そしてもう一人、50年も昔になりましたが、大橋国一さんのドンジョバンニが忘れられません。相対的に他が小粒だったせいもあり、大橋さんのタイトルロールが見事な存在感で迫ってきました。
今回のプリアンテも、特に2幕は好演でしたが、もっと圧倒感が欲しかったですね。

別件で申し訳ないですが、追伸です。前日の9月9日にオーチャードホールで演奏されたバティストーニ指揮のオテロ、これもすばらしかったですよ。先生の感想が聞かれないのが残念でした。。

投稿: ル・コンシェ | 2017年9月11日 (月) 17時42分

ル・コンシェ様
コメント、ありがとうございます。
大変失礼しました。私が「ドン・ジョヴァンニ」を聴いたのは、9月9日でした! 先ほど、本文を修正させていただきました。10日に大分に行く用があったため、9日にしたのでした。そのため、9日の「オテロ」は「ドン・ジョヴァンニ」と重なるために諦めたのでした。
私も、映画で初めてシェピをみて、これがドン・ジョヴァンニだったのか!と納得した覚えがあります。
大橋国一、懐かしいですね。私はフィガロの記憶はありますが、ドン・ジョヴァンニは見たことはないように思います。

投稿: 樋口裕一 | 2017年9月12日 (火) 10時54分

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