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映画「沈黙」「1911」「イラクの煙」「バビロンの陽光」

 9月の最終週から非常勤講師としての大学の授業が始まるが、それまでは夏休み。コンサートに行く以外は、自宅で原稿を書いている。そして、疲れたら休憩して、DVDで映画やオペラを見る。何本か映画DVDをみたので感想を書く。

 

「沈黙」 篠田正浩監督 1971

 先日、スコセッシ監督の「沈黙」をDVDでみた。久しぶりに、封切当時にみて大いに感動した篠田正浩監督の「沈黙」をみたくなって、DVDを入手した。

篠田監督は私の大好きな映画監督だった。「心中天網島」「はなれ瞽女おりん」「瀬戸内少年野球団」「少年時代」は日本映画史に残る名作だと思う。

 あらためてみて「沈黙」も素晴らしいと思った。私はスコセッシ監督作よりもこちらのほうが好きだ。神の沈黙と人間の性(さが)の相克をこちらのほうが強く抉り出していると思う。そして、マコ石松の演じる下品で一癖もふた癖もありそうなキチジローの描き方がみごと。奉行役の知的な岡田英二もいい。岩下志麻の存在も大きい。あまりに美しく、あまりに無残。最後の場面は衝撃的だ。それに、スコセッシ監督の映像と異なって、背景がしっかりと日本の江戸時代になっている。

 フェレイラを演じるのが丹波哲郎。今回みて、封切時に違和感を覚えたのを思いだした。封切時ほどではなかったが、今回みても、やはり少々無理があると思った。丹波哲郎は好きな役者だし、「第七の暁」という映画(私は中学生のころにこの映画を見て、いっぺんに丹波ファンになったのだった!)や「007は二度死ぬ」で見事な英語を耳にした。しかも、確かに日本人離れした容貌ではある(「第七の暁」では、確かベトナム人青年を演じていた)。当時の日本の低予算映画では、これほどの演技のできる外国人俳優に出演させることは資金的に難しかったのだろう。

 

「1911」 チャン・リー監督 ジャッキー・チェン総監督

 辛亥革命を描く「アクション・スペクタクル巨編」。昨年、広州に行った際、孫文を記念する博物館に行ったが、辛亥革命について知識がないことに思い当たってネットをみているうちにこの映画DVDを見つけた。広州から帰ってすぐに購入したのだったが、ようやく見た。孫文の片腕となって戦闘を率いた黄興(ジャッキー・チェン)の活動を描く。

 とはいえ、歴史と人物をくっきりと描けているとは言い難い気がする。特に孫文にも黄興にも感情移入することなく、ただ歴史の表面を知っただけで終わってしまった。

 

「イラクの煙」 アウレリアーノ・アマディ監督 2010

 2003年、イラク戦争の現場でイタリア軍が攻撃され、多数の死傷者が出る事件があったという。ノンフィクション映画撮影のために訪れていたイタリアの監督や助手も巻き込まれた。奇跡的に生き延びた映画助手アウレリアーノ・アマディが後日、実際の自分の体験を映画化したのがこの作品だ。愛煙家であるアマディがイランで20本しかタバコを吸わないうちに被害に遭ったことから、原題は「20本のタバコ」となっている。

 実体験に基づいているだけあって、被害に遭った後の場面は驚異的なリアリティだ。突然爆撃された人間はきっとこのような意識を持ち、このように感じるだろうと納得する。とぎれとぎれの映像に迫力がある。ただ、私はどうもこの主人公に感情移入できないし、イラクの状況、世界の状況をえぐっているとは思えない。いくつもの映画祭で高い評価を得たとのことだったが、私はあまり面白いとは思わなかった。

 

「バビロンの陽光」 モハメド・アアルダラジー監督 2010

 イラク人監督による映画。サダム・フセイン政権崩壊の3週間後、クルド人の老女が孫とともに行方不明になった息子(つまり、孫の父親)を探しまわるロードムービー。トラック運転手、タバコ売りの少年、クルドの村の破壊に加わった元兵士たちと出会いながら息子を探すが、刑務所にも墓場にも結局見つからない。最後、トラックの中で老婆は死に、孫が一人残される。

 フセイン政権崩壊後のイラクの状況はこの通りだったのだろう。町は崩壊し、フセイン政権によって殺害された人々の遺体が掘り起こされている。人々は刑務所や墓場に息子や夫を探しまどう。孫と男の子を中心に据えて、このようなイランの状況を描いている。当時のイランの人たちの苦しさが伝わってくる。

 子どもが中心の一人であることから、お涙頂戴の映画なのかと思っていたが、そうではなく、かなり客観的に子供たちの置かれた状況を描いている。ただ、これまで見てきた戦後映画と大差ないような気もしないではない。

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