ネトレプコは今回も凄かった
2017年9月28日、東京オペラシティ コンサートホールで、アンナ・ネトレプコ+ユシフ・エイヴァゾフのコンサートを聴いた。ゲストはエルチン・アジゾフ(バリトン)、伴奏はミハイル・タタルニコフ指揮の東京フィルハーモニー交響楽団。曲目は前半はヴェルディのオペラから、後半はマスカーニ、ジョルダーノ、ドヴォルザーク、レハールのオペラの有名な曲。最後にヴェルディの「イル・トロヴァアトーレ」。
ネトレプコはやはりすごい。私は、昨年の来日コンサートをはじめ、ザルツブルクまで追いかけてネトレプコはかなり聴いているが、聴くたびに驚く。今回、ますます表現力を増しているのを感じた。しかも、いっそう声がドラマティックになっている。今やドラマティック・ソプラノに近い。
最初のネトレプコの歌、「マクベス」の「勝利の日に~来たれ、急いで」が始まった途端に、会場の空気が一変した。声が大きくてきれいだというレベルを超えて、姿にも動きにも声にも歌唱にも人々を引き付ける力がある。声を出した途端に、みんながあっと息を飲む。会場全体が注目する。そして、最高に美しい声が響き渡る。
「アイーダ」の「勝ちて帰れ」もよかったし、仮面舞踏会」からのエイヴァゾフとの二重唱も素晴らしかった。イタリア・オペラよりもドイツ系のオペラのほうが好きな私としては、後半、ドヴォルザークの「ルサルカ」の「月に寄せる歌」が含まれているのは実にうれしかった。清澄な声。しかし、ドラマティックでエロティックと思えるような官能性もある。胸がときめく。「トゥーランドット」の「北京の人々よ この宮殿の中で」もビンビンと声が響いて圧倒的。
ほかの歌手たちもとてもよかった。現在、ネトレプコの夫君であるエイヴァゾフは、ネトレプコが選んだだけのことはあって、実に見事。最初の歌こそ、ちょっと声がざらついていたが、すぐに本調子になった。ゲストのアジゾフも歌いまわしがとても折り目正しく、しかも見事な美声。エイヴァゾフとの「ドン・カルロ」の有名な二重唱は、二人の息があっていて素晴らしかった。 指揮者も折り目正しく、私はとても好感を持った。東フィルも健闘。とてもよかった。
とはいえ、ちょっと不満もある。
チケットが発売された段階では、まだ曲目が決定していなかった。だから、実は、私はネトレプコがもっともっと歌うと思ってチケットを購入した。が、ネトレプコが実際に歌ったのは6曲だけ。ネトレプコ目当てにコンサートに来た人間にとって、少々物足りない。もっともっと歌ってほしかった。ほかの歌手たちもとても良かったとはいえ、世界的に有名な歌手ではない。これでS席38000円は少々高い。そう思う人が多かったのか、空席も目立った。
とはいえ、やはり三人の歌の饗宴に酔った。人間の声の威力はすさまじいと思った。興奮したまま帰途についた。
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コメント
こんにちは。また顔を出しました。
私は昨日(10月3日)オペラシティーに行きました。ネトレプコに堪能し、他の歌手たちも名前も知らない人たちでしたが、樋口先生のおっしゃるとおり、十分に楽しめました。東フィルがいい音を出していて、指揮者の功績もあるかと思いました。
しかしこの切符のオネダンは高すぎます。昨日も空席が目立ちました。しかも3人が歌っておまけにオケだけの曲も挟まれますからなが~いコンサートとなり、結局終演は9時20分、アンコールはなしです。歌のリサイタルではアンコールが本番以上に盛り上がることも多く、今回も楽しみにしていたのですが、1曲も歌ってくれませんでした。満足感とともに、ちょっと残念感も伴って家路につきました。
投稿: ル・コンシェ | 2017年10月 4日 (水) 07時50分
ル・コンシェ 様
コメント、ありがとうございます。
おっしゃる通り、長いコンサートでしたね。そして、アンコールなしでした。アンコールでネトレプコがたっぷり歌ってくれることを期待していましたので、私も失望したのでした。
いろいろと事情があるのだとは思いますが、一般観客としてはネトレプコをもっと聴きたいですよね。
投稿: 樋口裕一 | 2017年10月 4日 (水) 22時55分