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新国立劇場「神々の黄昏」 すべてがそろった世界的名演に感涙した

2017101日、新国立劇場で「神々の黄昏」の初日をみた。指揮は飯守泰次郎、演出はゲッツ・フリードリヒ。「リング」のチクルスの最終回。素晴らしかった。第三幕後半はずっと興奮していた。

まず、ブリュンヒルデを歌ったペトラ・ラングに圧倒された。これまで、ジークリンデやオルトルートを聴いたことがあったが、ブリュンヒルデは初めて。清純な細めの声だが、よくとおり、芯が強い。第二幕は声量もたっぷりに音程の良い美しい声を聴かせてくれた。第三幕では、やや疲れが出た感じがしたが、それでも最後まで見事に歌い切った。しかも、この人、演技も素晴らしい。新妻らしい色気にあふれる場面、呪いに満ちた怒れる場面、最後の自己犠牲の場面、すべての面を自然に見せてくれた。そして、もちろん容姿も大変良い。素晴らしい歌手だと思った。このような可愛らしさのあるブリュンヒルデもとても魅力的だ。

ジークフリートを歌ったステファン・グルードももちろん素晴らしい。私は、バイロイトでも日本でも何度か彼のジークフリートを聴いてきたが、声が安定しており、輝きがある。そのほか、ハーゲンのアルベルト・ペーゼンドルファーも太いしっかりした声で、存在感のある悪役ぶりを発揮してくれた。グンターのアントン・ケレミチェフもこの役にふさわしい。しっかりした声。

 ヴァルトラウテを歌ったのはヴァルトラウト・マイヤーだった。かつての大歌手。私は、バイロイトでもベルリンでも日本でも、何度も感動に打ち震えた覚えがある。確かに声の輝きは以前ほどはないが、存在感、歌い回しはさすがというしかない。心にぐいぐいと迫ってくる。

 アルベリヒの島村武男は外国人勢にまったく引けを取らない歌唱。アルベリヒにぴったりの歌と演技。そして、グートルーネの安藤赴美子も、ちょっと声は小さいが、優雅で色気があって実に良い味を出していた。

 ヴォークリンデの増田のり子、ヴェルグンデの加納悦子、フロスヒルデの田村由貴絵、竹本節子、池田香織、橋爪ゆかのノルンたちも、世界最高の劇場にまったく引けを取らない。三澤洋史指揮の新国立劇場合唱団も時に震えがくるくらいすごかった。

 そして、特筆するべきは、飯守指揮による読売日本交響楽団だろう。前回の「ジークフリート」では、マエストロ飯守らしい「うねり」がないのが、私には少し物足りなかったのだが、今回はしっかりと「うねり」があり、厚いワーグナーの響きがあった。私は今回のオーケストラの音にしばしば酔った。もちろん、いくつかミスはあったが、全体的には実に精妙で芯のある音が続いていた。

 ゲッツ・フリードリヒの演出は、今となってはかなり常識的な解釈。すべて既視感がある。とはいえ、そうした現在、常識とされているような演出を作りだした一人がゲッツ・フリードリヒなのだから、その偉大さを味わうべきだろう。先月のバイエルン国立歌劇場の「タンホイザー」のような意味不明の演出に邪魔されず、しっかりとワーグナーの楽劇の世界に浸ることができた。第三幕は、やはり圧倒され、感動し、涙を流した。

 皇太子殿下が見えられていた。そのせいもあるのかもしれない。とても気合の入った演奏に思えた。まさしく世界最高レベルの「神々の黄昏」だと思った。

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コメント

樋口先生、

ゲッツ・フリードリヒの演出は、今となってはかなり常識的な解釈。すべて既視感がある。とはいえ、そうした現在、常識とされているような演出を作りだした一人がゲッツ・フリードリヒなのだから、その偉大さを味わうべきだろう。

まさにその通りで、名言です。
2日目を聴きましたが、良くも悪くもスマートになってましたね!

投稿: ねこまる | 2017年10月 5日 (木) 22時48分

ねこまる様
コメント、ありがとうございます。
もう一度、今回のプロダクションをみようと思っています。こなれて、もっと良い演奏になっていると嬉しいのですが、さてどうでしょう。いずれにしても大いに期待したいと思います。

投稿: 樋口裕一 | 2017年10月 8日 (日) 00時03分

『神々の黄昏』では、ところどころ重要な場面でオーケストラの音楽がストーリーをけん引し、最後の「ブリュンヒルデの自己犠牲」に続く大管弦楽が織りなす壮大な幕切れは、言葉を使わずに総てを音楽に託したのだと感じました。ジークフリート役のステファン・グールは、『ワルキューレ』でジークムント、『ジークフリート』と『神々の黄昏』ではジークフリートを歌いましたが、様々な場面でも余裕が感じらました。ブリュンヒルデ役のペトラ・ラングは、何といっても第3幕後半の凛として全員を取り仕切る見事な舞台が圧巻でした。存在感のあったハーゲンもすばらしかったですし、脇役のヴァルトラウテ役の、グートルーネの安藤 赴美子さヴァルトラウト・マイヤー。アルベリヒ役の島村 武男さんの講演と、新国立合唱団の迫力ある合唱が舞台をしきしめていました。この舞台をも見てこれぞ「楽劇」という体験ができました。

私も楽劇『神々の黄昏』を鑑賞した体験を詳しく音楽を解析し整理しながら、このワークナーの素晴らしい楽劇の体験と感動をレポートしたてみました、読んでいただけると嬉しいです。樋口先生から、ご意見・ご指導などをブログにコメントいただけると感謝します。

投稿: dezire | 2017年10月16日 (月) 12時56分

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