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「トスカ」「ロメオとジュリエット」「ファウスト」「ギヨーム・テル」「パルジファル」「エフゲニー・オネーギン」のオペラ映像

 何本かオペラの映像を見たので、感想を簡単にまとめる。

 

443 プッチーニ 「トスカ」2011年 ロンドン、コヴェント・ガーデン王立歌劇場

 とてもレベルの高い演奏。トスカのアンジェラ・ゲオルギュー、カヴァラドッシのヨナス・カウフマン、スカルピアのブリン・ターフェルの三人は、もちろん現在最高の歌手。指揮はアントニオ・パッパーノ。とても雄弁。ジョナサン・ケントの演出はドイツ系のオペラの独創的な演出に慣れた人間からすると、きわめておとなしい。ただ、やはりプッチーニのオペラは私にはどうも合わない。なぜかよくわからないが、少しも私の心に響かない。ほかのオペラよりもドラマティックな「トスカ」なら、プッチーニ不感症の私でも感動できるのではないかと期待したのだったが、ダメだった。

 

884 グノー「ロメオとジュリエット」2002年 バーバラ・ウィリス・スウィート監督の映画

 

 映画版。しかも、かなり短縮されているし、ゲオルギューとアラーニャ以外は役者が演じている。チェコのズヴィーコフ王城でロケされたという。ゲオルギューは可憐で美しい。アラーニャも十分にロメオに見える。もちろん、シェークスピアの描く10代の少年少女の物語ではなくなっているが、それはそれでとても美しい悲劇。二人の主役、そしてわき役まで見事。

 

110 グノー 「ファウスト」2016820,23日 ザルツブルク祝祭大劇場

 近年大活躍のピョートル・ベチャワがファウストを歌う。もう少し声の輝きがほしい気がしないでもないが、見事にファウストを歌っている。イルダー・アブドラザコフがメフィストフェレを歌っているが、もしかしたら少し不調だったのかもしれない。声が出ていないところを感じた。マリア・アグレスタの歌うマルグリートはちょっと声が重くて、私にはあまり可憐に思えなかった。アクの強さを感じさせる。アレクセイ・マルコフのヴァランタンは圧倒的に素晴らしかった。しっかりした美声で理不尽な目に合う男の役を見事に歌っている。シーベルのタラ・エロートも、どう見ても男性とは思えない容貌だが、声もしっかりしているし、声の演技も実にいい。

 指揮のアレホ・ペレスについては、私にはあれこれ言う資格はない。精妙な部分、ドラマティックな部分をうまく鳴らしわけ、後半に大きな盛り上がりを持っていくところは見事だと思った。

 演出はラインハルト・フォン・デア・タンネン。ファウストとメフィストフェレスの双生児性を強調する演出。しばしば同じような服装をし、同じしぐさをする。確かに、そのような解釈はありうるだろうが、ちょっと鼻につかないでもない。

 とはいえ、全体的には演奏面でも演出面でも満足できる。

 

968 ロッシーニ 「ギヨーム・テル (ウィリアム・テル)」2015年 ロンドン、コヴェント・ガーデン 

 指揮はアントニオ・パッパーノ。序曲がしなやかで柔らかく始まる。大人の味わい。焦らずにじっくりと盛り上げていく。

 歌手はそろっている。ギヨーム・テルを歌うジェラルド・フィンリーがまずすばらしい。日本ではあまり人気がなさそうだが、私はザルツブルク音楽祭でこの人のドン・ジョヴァンニを見ていっぺんでファンになった。声量豊かで懐が深く、安定感がある。メルクタールのジョン・オズボーンも輝かしく華麗なテクニックが素晴らしい。マティルデを歌うマリン・ビストレムはまるでハリウッドのスター女優のように美しい容姿。声量はあまりなさそうだが、きれいでしっかりした声。王女様にはぴったりの声だ。

 そのほか、エドヴィージュのエンケレージャ・シュコサ、ジェミのソフィア・フォミナ、アルノールのエリック・ハーフヴァーソン、ジェスレルのニコラ・クルジャルも素晴らしい。端役、合唱に至るまでまったくスキがない。

 演出はダミアーノ・ミキエレット。スイスの精神を表わすような中世の服装の男性が黙役として登場し、主人公たちを補佐する。この謎の人物が、できるだけ平和主義でいようとするテルに対して、暴力には暴力でしか対抗できないことを説得するらしい場面がある(私は実は平和主義者ではないので、この考えには反対しない)。その後、テルがジェスレルを殺してスイス社会に自由をもたらす。最後の自由を求めての合唱は感動的。

 このオペラが少し前まで、「序曲だけが有名な駄作」とみなされていたのが不思議だ。ただ、確かにちょっと長すぎる! 

 

110_2 ワーグナー 「パルジファル」  バイロイト祝祭劇場 2016

 演奏については文句なく素晴らしい。私は、グルネマンツを歌ったゲオルク・ツェッペンフェルトがとりわけ圧倒的に思えた。実演も聴いて、素晴らしいことはよく知っているが、改めてグルネマンツの深い声にぴったりだと思った。パルジファルのクラウス・フロリアン・フォークトもいい。この役にふさわしい声。前半、頼りなげな所もうまく歌っている。アンフォルタスのライアン・マッキニーはかなり若い歌手だが、声、歌、容姿がそろっていて見事。イエス・キリストを思わせ、なおかつパルジファルとの相似性を示す演出になっているが、その点でもこの歌手はぴったり。フォークトとよく似た容姿。クンドリのエレーナ・パンクラトヴァ、クリングゾルのゲルト・グロホウスキも立派な声。すばらしい。

 そして、ハルトムート・ヘンヒェンの指揮も厚みがあり、強靭さがあり、私には理想的な演奏に思えた。何度もバイロイトの音に酔った。

 ただ、ウーヴェ・エリック・ラウフェンベルクの演出には問題を感じる。廃墟のようになったモンサルヴァット。地図が映し出されるが、それによると、ここは中東のどこかに位置しているらしい(ネットで調べたら、どうやらここは地図上はISの拠点らしい)。クンドリはイスラム女性として登場する。八人の乙女もはじめイスラムの扮装で登場。ベリーダンスでパルジファルを誘惑する。アンフォルタスはキリストのような雰囲気を出す。思わせぶりなあれこれのことが起こるが、要するに、「従来のキリスト教は旧弊になって、人々の支持を失い、他宗教を排除している。もっと多くの人を受け入れ、人間性を押下する宗教に生まれ変わろう」というようなメッセージを語っているようだ。私には、かなり安易な演出に思えてならない。

 とはいえ、この演出の思わせぶりな他愛なさへのいら立ちを超えるほど演奏は素晴らしいと思う。

 

909 チャイコフスキー 「エフゲニ・オネーギン」2011年バレンシア、ソフィア王妃芸術宮殿

 とても刺激的な上演。オマー・マイア・ウェルバーの指揮は、劇的で、人間の暗部を抉り出すように演奏する。憂鬱で甘く切ないメロドラマではなく、劇的で残酷で狂気じみた物語になっている。それはそれで大変面白い。なるほど、そのようなオペラともいえる。

 マリウシュ・トレリンスキの演出も狂気性を意識している。とりわけ第三幕は表現主義的な背景で、ぎこちなく人々が動く。老いたオネーギンが過去を思い出すという設定で、黙役の初老の男性が登場し、オネーギンの悲痛を動きで表現する。ただ、これは少々邪魔な気がする。

 歌手については、容姿をかなり意識して選ばれているようだ。みんな美男美女。とりわけ、タチヤナを歌うクリスティーネ・オポライスがあまりに美しい。しかも、歌もいいし、演技も素晴らしい。タチアナの苦悩が伝わってくる。オリガのレーナ・ベルキナも可憐。オネーギンのアルトゥール・ルチンスキは、見かけはオネーギンにぴったりだが、声の面で弱い。レンスキーを歌うのはドミートリー・コルチャク。善良でやさしいレンスキーをうまく歌うが、ちょっと甘すぎる気がしないでもない。グレーミン侯爵はギュンター・グロイスベックだが、ちょっと不調かもしれない。グロイスベックらしい声の伸びがなかった。

 とはいえ、全体的には極めて満足。

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