ジャームッシュの映画「デッドマン」「ゴースト・ドッグ」「コーヒー&シガレッツ」「ブロークン・フラワーズ」
小さな仕事は次々と押し寄せるが、大きな原稿はほぼ書き終わったので、あと2か月ほどは少し余裕がある。小さな仕事をしながら、時々映画DVDをみたり、本を読んだりしている。
先日に引き続いて、ジム・ジャームッシュの映画を何本か見た。短い感想を書く。
ジョニー・デップ主演、ロバート・ミッチャムも出演するモノクロの西部劇。デップが演じるのはウィリアム・ブレイクという名の都会派の会計士。クリーヴランドから仕事を求めて西部の町にやってくるが、仕事にありつけず、しかも女性がらみで男に殺されそうになって、逆に男を殺してしまう。森に逃げ込んでノーボディという名のインディアンに助けられ、追っ手と戦ううちにお尋ね者の銃使いになっていく。最後、瀕死の重傷を負い、ノーボディの計らいで海と空が一つになる場所へとボートで向かう。
ノーバディはインディアンでありながら西洋社会育ちという設定で、ウィリアム・ブレイクの詩を愛しており、同じ名前の会計士の中に詩人を見る。会計士=お尋ね者と詩人が重なり合っていく。モノクロの森の風景があまりに美しい。まさしく心証世界を描く詩的世界。
ただ残念ながら、英米詩に強くない私としては、ブレイクの詩について無知なので、この映画の中のブレイクへの仄めかしについてはほとんど理解できない。素晴らしい映画だと思うが、私の理解力が届かない思いが残る。
「葉隠」に影響された黒人の殺し屋(フォレスト・ウィテカー)。マフィアに助けられたために、その手下として働いていたが、ちょっとした行き違いから、マフィアに狙われることになり、結局、敵を皆殺しにするが、かつての恩人に対しては自ら撃たれることを選ぶ。動物を愛し、伝書鳩を通信手段に使い、フランス語しか話さないアイスクリーム売りとコミュニケーションをとる。アクション映画の外観を装いながら、人間の孤独をさりげなく描く。
芥川の「羅生門」の英訳が示されたり、「藪の中」について語られたりして、ジャームッシュの日本への関心がよくわかる。それを体現しようとするのが、かなり肥満気味の黒人の大男という設定もおもしろい。禁欲的になりすぎず、日常的な味わいが出ている。日常の中の孤独がひしひしと伝わってくる。素晴らしい映画だと思った。
「コーヒー&シガレッツ」 2003年
コーヒーを飲み、タバコをふかしながらも二人、または三人の会話から成る11の短いエピソードから成る。日常のちょっとした行き違い、ディスコミュニケーションというべきものを描いて見せる。アンジャッシュや東京03のコントを思わせる。ただ、もっとさりげなく、もっと静か。とてもセンスがいいし、会話が面白いし、人間の機微を描いている。
ただ私としては、この映画にはそれほどの魅力を感じなかった。なかなかの佳作、ということで済んでしまう。短くてさりげなくて、ちょっと面白いエピソードということなのだと思うが、やはりこれだと私の好みからは短すぎて、一つ一つのエピソードを深く理解できない。
とはいえ、ちょっとしたしぐさやセリフで登場人物の心をわからせ、日常の中のちょっとした行き違いを描く手腕に驚いてしまう。
出演しているのは超大物たちらしいが、アメリカ映画、アメリカ音楽に詳しくない私は、知っているのはほんの数人しかいない。この人たちになじんでいたら、もっと感動できたのかもしれない。
かつてドン・ファンとして鳴らした男(ビル・マーレイ)のもとに、匿名のピンク色の手紙が届く。「あなたと別れてから、あなたの息子を産んだ。19歳になる息子があなたを訪ねようとしている」と書かれている。男は覚えのある女性(シャロン・ストーン、フランセス・コンロイ、ジェシカ・ラング、ティルダ・スウィントン)を次々と訪ねて、手紙の主を確かめようとするうち、それぞれの人生を垣間見る。
昔のジュリアン・デュヴィヴィエ監督のフランス映画「舞踏会の手帖」を思い出す構成だが、雰囲気はまったく異なる。ビル・マーレイのとぼけた味のために、ウェットなところがなくなり、コメディになる。しかも、それぞれの再会、それぞれの女性の現在の生活がかなり突飛。結局、わけもわからず暴力を受けただけで、結局、手紙の主はわからない。ついには、男の家に近づく若者もみんなが息子に見えてしまう…。
何も解決しないまま終わるが、見終わると、「確かに、人生ってこんなもんだよなあ」「自分も日常生活をこんな気持ちで過ごしているよなあ」という気持ちになる。
それにしても、ビル・マーレイを主役にし、このような設定にしているからこそ成り立つ物語だと思う。ちょっと設定を変えたら、まったく不自然で荒唐無稽でリアリティのない話になってしまう。微妙な線を狙って成功させている手腕にも驚く。
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