エーベルレのシューマンに心を揺り動かされた
2017年10月26日、武蔵野市民文化会館小ホールでヴェロニカ・エーベルレ ヴァイオリン・リサイタルを聴いた。ピアノ伴奏はシャイ・ウォスナー。素晴らしい演奏だった。
会場に行く前はちょっと億劫に感じていた。曲目は変更されて、バルトークのヴァイオリン・ソナタ第1番とJ.S.バッハのヴァイオリン・ソナタ第3番 ホ長調 BWV1016とシューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番。実はどれもそれほど好きな曲ではない。が、実際聞いてみると、これがすごかった。
エーベルレはとても若い女性ヴァイオリニスト。見た目は清楚でかわいらしいのだが、音は思い切りがよく、強靭で勢いがある。強いアタックで、激しく弾く。しかし、折り目正しく、音の処理が実に端正で清潔。情緒に流されることがない。
バルトークはそのような音でバリバリと激しく弾いて実に素晴らしかった。第三楽章の舞曲の部分の独特の雰囲気にとりわけ惹かれた。人生の悲しみ、喜び、苦しみをすべて含めた舞曲。そんな雰囲気を私は感じた。若い女性がこのような音楽を作りだすことに驚いた。ピアノのウォスナーも粒立ちのきれいな音で、しっかりとフォローしている。素晴らしいピアニストだと思った。
バッハは弓いっぱいに弾いてスケールが大きく、しかもりりしい。さわやかでしみじみと美しい。ただ、バルトークに比べると、ちょっと若さが出た感じがしないでもなかった。もう少し味わいのある音のほうが私には好みだ。あえて単純明快にして、バッハのポリフォニーの音楽を際立たせようとしているのだと思うが、ちょっとわかりやすすぎた感じがした。
シューマンは圧巻だった。実は、シューマンのこのソナタは、ヴァイオリン協奏曲とともに私の苦手な曲だ。執拗に同じメロディを続けるし、唐突に激情的になる。「やはりこの人は健全な精神を持っていない」と感じる。が、今日の演奏を聴いて、納得した。
エーベルレとウォスナーは、この曲を無理やりきれいでロマンティックな音楽にしようとしていない。アンバランスで狂気じみたシューマンの激情を激しいタッチでそのまま抉り出そうとする。狂気の一歩手前の精神をヴィヴィッドに描き出している。こうして聴くと、危うい人間精神の本質的な部分を目の前に差し出されたように感じる。すごいリアリティ。音楽とともに私の心もかき乱された。第四楽章では心をゆすぶられ、感動した。私がこの曲にこんなに感動するとは思わなかった。
アンコールはブラームスのソナタの第3番第2楽章。ゆっくりとロマンティックに、しかし、決して情緒のおぼれずに演奏。素晴らしい。私のもっとも好きなタイプの演奏。
また大好きなヴァイオリニストが一人増えた。
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