ネルソンス+ボストン ショスタコーヴィチの凄まじさ
2017年11月7日、サントリー・ホールでアンドリス・ネルソンス指揮、ボストン交響楽団のコンサートを聴いた。曲目は、ギル・シャハムが加わってのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲と、ショスタコーヴィチの交響曲第11番「1905年」。とりわけ、ショスタコーヴィチはものすごい演奏だった。
やはりオーケストラが見事。アメリカのオケの機能とヨーロッパ的な伝統美を併せ持っているのを感じる。弦楽器の音の美しさにまず驚き、管楽器の音の勢いにも驚いた。さすが。そして、ネルソンスの指揮も素晴らしい。スケールが大きく、ダイナミックに音を動かす。細かいニュアンスもあるので、大味にならない。エネルギッシュで豊穣。以前、バイロイト音楽祭の「ローエングリン」を聴いた記憶がある。悪くはなかったが、それほど感心した記憶はない。が、今回、チャイコフスキーを聴いて真価を知った。ただ、チャイコフスキー的な陰鬱で甘美で情熱的な雰囲気は少し欠ける。やはり、かなりアメリカ的なチャイコフスキー。あけっぴろげなチャイコフスキー。
ヴァイオリンのシャハムも音の刻みが鮮烈。情熱的でアクセントが強いが、不自然なところがなく、ぐいぐいと音楽を引っ張っていく。ただ、これもチャイコフスキー的な情緒はない。あけっぴろげというのは違うが、抑圧された世界での情熱の爆発がない。しかし、それはそれでとても魅力的。
アンコールはバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番のガボット。とても鮮明な演奏。
ショスタコーヴィチはもっと鮮烈だった。第二楽章の虐殺の場面はあまりに凄惨。第三楽章の犠牲者へのレクイエムの場面も悲痛さが広がる。第四楽章はわざと大袈裟に、そして戯画的にソ連の勝利を描き、その後、それに対する皮肉をたたきつけ、そして最後には人民の勝利をたたえているように聞えた。ネルソンスは標題音楽として見事に描く。実に手際が良く、語り口がうまい。雰囲気の切り替えも実に見事。オーケストラを完璧に掌握しているのがよくわかる。
実は私はチャイコフスキー好きでもショスタコーヴィチ好きでもないので、心の底から感動するということはなかったが、あまりの音に豊穣さ、あまりの音の切れのよさにしばしば酔った。素晴らしいと思った。「1905年」の第二楽章の凄惨な音楽に魂を奪われた。
アンコールはショスタコーヴィチの「モスクワのチェリョムーシュカ」の「ギャロップ」とバーンスタインのディベルティメントの「ワルツ」。これもオケの性能の良さを存分に発揮し、ネルソンスのリズム感の良さとセンスの良さを見せてくれた。見事。
皇太子殿下ご夫妻が来ておられた。「1905年」という、ロシア皇帝の圧政に対して人民が立ち上がった事件を描く音楽を皇太子夫妻が聴かれるというのは、考えてみると、不思議なことだ。きっと皇太子殿下がこの音楽がお好きなのだと思う。世界における民主主義の進化、そして、同時に日本の天皇制と民主主義の懐の深さを感じる。
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