新国立劇場「ばらの騎士」 感動には至らず
2017年11月30日、新国立劇場で「ばらの騎士」をみた。一昨年観たのと同じジョナサン・ミラーの演出だが、今回は今日が初日。なかなかよかった。
指揮はウルフ・シルマー。勢いのある演奏。ところどころはっとするような切り込みがある。東京フィルもよくついており、大きなミスはなかったと思うが、シュトラウスにふさわしい精妙で絶妙の音楽にはあと一歩というところだった。
歌手はそろっている。私はその中でも、オックス男爵のユルゲン・リンとゾフィーのゴルダ・シュルツがとりわけ素晴らしいと思った。二人とも声量があり、表現力がある。シュルツを聴いたのは今回が初めてだと思うが、太い声だが、高音がとても美しい。南アフリカ出身の若いソプラノ。今後がとても楽しみだ。
元帥夫人のリカルダ・メルベートももちろんいいのだが、もう少し繊細な方が私の好みだ。オクタヴィアンのステファニー・アタナソフは、第一幕の途中から突然素晴らしくなった。容姿もいいし、声もきれい。ただちょっと演技力に問題がありそう。クレメンス・ウンターライナーは生真面目で硬直したファーニナルを見事に歌っていた。
マリアンネの増田のり子、ヴァルツァッキの内山信吾、アンニーナの加納悦子、警部の長谷川顯などの日本人メンバーもとてもよかったが、やはり世界レベルの外国人スター歌手と比べると、少々ひ弱な印象を受けざるを得なかった。
第三幕の三重唱は、もちろん悪くはなかったが、少しオーケストラの音が大きすぎて声がかき消された印象を受けた。オケをもりあげたかったのはわかるが、もう少し声の精妙さを味わいたかった。その後の愛の二重唱はとても良かったが、ここも感動に酔いしれるまでには至らなかった。あと少しのオーケストラの精度がほしいと思った。きっと、回を重ねるごとに精度が増していくのだろう。
「ばらの騎士」は、中学生のころから、つまり50年以上前から大好きなオペラだ。もう少し感動したかったが、これほどのレベルの上演が日本で日常的に行われるようになったことに改めて気づいた。50年前には考えられなかったことだ。
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コメント
樋口さん、こんばんは。
初日以外全部行きました。シュルツが抜群でした。スター性があります。グリスト、バトルに通じるものがあります。
シルマーの指揮は概ね高評価のようです。確かに千秋楽の三重唱の陶酔感など、素晴らしいものだったと思います。ただ、ppやpがなく、終始mf気味なので耳が疲れました。ばらの騎士で耳が疲れたのは初めてでした。劇場のPA設定がおかしいのか?と本気で思っています。
オケの精度は上がっても、指揮者の芸術性には限界があります。シルマーの良さはオケを締め上げず、豊かに響かせる点でしょう。豊満なシュトラウスサウンドを味わいました。ただ、ばらの騎士は名作中の名作。クライバーと比べるのは酷としても、ショルテスやシュナイダーだったら、と思う箇所が一つや二つではなかったです。
東フィルは、いつも通り尻上がりに良くなりました。初日がリハみたいで、中はルーチン、千秋楽は爆音というスタイルは褒められたものではありませんが、人間的ではあります。笑
投稿: ねこまる | 2017年12月10日 (日) 01時22分
ねこまる 様
コメント、ありがとうございます。
最終日は、三重唱をはじめ、全体的にとても良い出来だったこと、信頼している方からも聞いておりました。新国立は回を重ねるごとに精度が高まることはよく承知しているのですが、仕事や旅行(現在、チェンマイにおります)の関係で、「ばらの騎士」には初日しか行けなかったのが残念です。
シルマーは確かに豊穣でダイナミックな指揮をする人ですね。私のきいた初日もPPやPの不足は感じました。次の機会にまた聴いてみたいものです。
投稿: 樋口裕一 | 2017年12月10日 (日) 23時16分