石田泰尚ヴァイオリン・リサイタル 狂気の手前で踏みとどまった音楽
2017年12月15日、ムジカーザで石田泰尚ヴァイオリン・リサイタルvol.4
を聴いた。ピアノ伴奏は中島剛。
曲目は前半にヤナーチェクのヴァイオリン・ソナタとスークの4つの小品。後半にシーマンの3つのロマンスとヴァイオリン・ソナタ第2番。
石田さんは初めは調子が上がらないタイプのようだ。これまで何度か聴かせてもらって毎回そうだった。最初の曲はあまり出来が良くない。今回も、ヤナーチェクのソナタの第1楽章がかなりぎこちなかった。第2楽章からだんだんと調子が上がってきた。石田さんの美音がヤナーチェクの心をかき乱す鋭い音になって響いた。ただ、ヤナーチェクの曲は最後まで本調子にならなかったのではないか。スークからまさしく本領発揮。ヤナーチェクとは違った、もっと抒情的で、もっと透明なリリシズムが歌われる。
シューマンはもっと良かった。とりわけ、ソナタは絶品。これまでこのブログにも何度か書いてきたが、実はシューマンの曲の中にいくつか苦手な曲がある。とりわけ、ヴァイオリン・ソナタの第2番は情緒の不安定さを感じて、聴いていて気持ちが悪くなることが多い。
ところが、今日の石田さんの演奏は、荒々しく、研ぎ澄まされた音が激しく上下し、心をかき乱す音が動き回るが、ぎりぎりとところで不安定を世界には入り込まない。濃厚なロマンティシズムをもった鋭くて劇的な素晴らしい音楽の世界にぎりぎりで踏みとどまっている。なぜそんな音楽になるのかについて、技術的なことは素人の私にはまったくわからないのだが、石田さんの人徳というか、その特異な音、得意なキャラクターのおかげというしかあるまい。石田さんが演奏すると、独自のスタイルに貫かれ、かなり突出した音楽になるが、決して不安定にはならない。正気の世界の縁にいる。
最初のアンコール曲は「トロイメライ」。抒情的な名曲とされているが、実は私はこの曲も苦手だ。不思議な夢幻の執拗な繰り返しに、私はどうしても狂気めいたものを感じて苛立ってしまう。ところが、これについても石田さんが演奏すると、微妙なところで踏みとどまった美しいロマンティックな世界になる。今日は私は少しも苛立たなかった。
2曲目のアンコール(恥ずかしながら、知らない曲だった)も素晴らしかった。最後は「きよしこの夜」。本当に素晴らしい美音。
ところで、隣の隣の席の女性が後半の演奏中、まるで指揮をするように、あるいはまるでヴァイオリンを演奏するように左手を動かすのには閉口した。気になって音楽に集中できなかった。隣の席だったら、間違いなく注意するのだが、その向こうの席では声をかけにくい。しかも、後半になって激しく動かし始めたので、休憩時間に注意するというわけにはいかない。「音を立てないように」という注意はあちこちでなされるが、「プログラムを扇子代わりに使ってバタバタさせたり、指揮の真似をしたりするのもほかのお客様に迷惑です」というような注意も必要ではないかと思った。
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