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イラン映画「風の吹くまま」「サイクリスト」「ギャベ」「キッシュ島の物語」「少年と砂漠のカフェ」

イラン映画のDVDを数本みた。感想を記す。

215vc6nappl_3 「風が吹くまま」アッバス・キアロスタミ監督 1999年

 イランの片田舎(クルド人地区のようだ)に、高齢女性が死んで珍しい葬儀が行われるのを期待して取材に来たテレビディレクターが主人公。女性の死を待つが、元気を回復してしまう。砂漠地帯での死と生。人の死を待ち、赤ん坊が生まれ、土の中から人骨が掘り返され、人が九死に一生を得る。高台で井戸を掘る青年やテレビ取材のスタッフが重要な役を成すはずだが、声が聞こえ、遠くからの映像が示されるだけで、その姿かたちは鮮明ではない。ディレクター1人に絞って、その行動を追って、人の生と死を描く。映像も素晴らしいし、とてもおもしろい。ただ、実をいうと、私はキアロスタミ監督の映画にはあまり共感しない。今回も同じような感想を持った。

 

A1m9czeescl_sy500_ 「サイクリスト」 モフセン・マフマルバフ監督 1989年

 アフガンから出稼ぎにきた男がイランで重病になった妻の治療費を捻出するため、1週間、休みなく自転車をこぎ続けるという賭けに参加する。雨が降ったり、妨害が行われたり、アクシデントがあったり、ちょっとしたズルをしたりしながらも、ともあれ妻を想って必死に成功させる。それだけの話なのだが、単純な枠組みの中に、イランの状況、アフガン人の置かれた状況、人間の生きる苦しみ、喜びを織り交ぜた見事な語り口のために、ぐいぐいと引き付けられてみてしまう。ストーリーを前もって読んで予想したハリウッド映画風の感動物語ではなく、もっと社会派。とてもおもしろかった。

 

316evl9abl 「ギャベ」モフセン・マフマルバフ監督 1996年

 ギャベ(絨毯)を擬人化してギャベという名前の若い女性を登場させ、自然の風物を織りなしていく絨毯の美しさを、じゅうたんに描かれるイランの自然とそこに生きる人々の原風景を描いた作品とでもいうのだろうか。「世界は色から成っている」という劇中に何度か語られるとおりの美しい色彩。絨毯は自然の花を用いて染められ、美しい水で色を定着される。そして、自然の中で生きる人々の暮らしを絵柄として描く。そこには男女の恋があり、誕生があり、悲しい死がある。それが一つのおとぎ話であるかのように美しく語られる。素晴らしい映画。まさしく一編の叙景詩。モフセン・マフマルバフの傑作の一つだと思う。

 

81tnnb30cl_sy500_ 「キッシュ島の物語」 1999年 イラン

 ナセール・タグヴァイ監督による「ギリシャ船」、アボルファズル・ジャリリ監督の「指環」、マフセン・マフマルバフ監督の「ドア」の三篇から成るオムニバス映画。キッシュ島の観光映画として依頼されてできた映画ということだが、驚くべき世界を描く特異な映画になっている。「ギリシャ船」は、キッシュ島に流れ着く段ボール箱を集めて家を飾る男と、それを嫌う妻の物語。つきものに着いたかのようになる妻の厄払いをする儀式が衝撃的に興味深いが、損場面が長すぎて少々退屈した。「指環」は妹の結婚相手への指環を送ろうとキッシュ島で必死に働く若者の姿を描く。「ドア」は、すべてを売り払い、最後に残った家のドアまでも売り払おうとして書いてに運ぶ老人と、その娘、唯一の財産らしい山羊を描く。映画全体が何を象徴しているのか実はよくわからないが、映像があまりに美しい。青い空、砂漠、海、踊る人々。いや、この「ドア」に限らず、3篇すべての映像があまりに美しい。描かれる世界は観光向けではないが、風景、人々の生きる姿はキッシュ島の魅力を存分に伝えている。いずれも映像詩として傑作だと思う。

 

51hfa9xqgdl 「少年と砂漠のカフェ」 アボルファズル・ジャリリ監督 2001年

 イラン国内のアフガニスタンとの国境付近。砂漠地帯にカフェがある。カフェといっても、石造りの小屋といった方が近い。宿泊施設もあるらしい。車で移動する人々がそこで飲み物を取り、食事をとり、時に宿泊する。アフガニスタンの戦争孤児で不法に入国している少年キャインはそのカフェで下働きをして何とか生き延びている。

学校では「美しい自然の国イラン」と教えているが、キャインの住む世界は過酷で、死と隣り合わせで、すべてが汚れており、薄汚く、不潔。もちろん、キャインは学校にも行けない。キャインの仕事の多くが動かなくなったエンジン、壊れた車の修理の手伝い。そのような状況を克明に描く。不法入国者を取り締まる刑事などが登場し、それなりのドラマはあるが、むしろ重点はキャインの過酷な生活の状況を描くことに置かれている。その意味では見事な作品だと思うが、ドラマとしては少々退屈だった。

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