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映画「わたしは、幸福(フェリシテ)」 人間の生命の俗と聖

 映画「わたしは、幸福(フェリシテ)」をみた。アフリカ系のフランス人であるアラ・ゴミスがコンゴのキンシャサを舞台に作った映画だ。

私は一時期アフリカ文学に傾倒し、しかも大好きだったソニー・ラブ・タンシという作家がコンゴ出身だったので、25年ほど前、2か月間ほどのアフリカ旅行を計画したことがある。その主たる目的地がコンゴ、とりわけキンシャサだった。が、コンゴの政情が悪化、そのうえ、コンゴだけでなく、そのほかの地域でも危険になったので中止した。アフリカ文学好きだった私としてはこの映画をみないわけにはいかない。

 幼児のころ、一度死んで棺に入れられたのに生き返ったために幸福(フェリシテ)と改名されたコンゴの女性の生き方を描く。簡単にまとめてしまうと、強く生きると称して酒場で歌を歌いながら突っ張って生きていたが、不良になった息子がバイク事故を起こして片足切断するうち、人の助けの大事さを知り、世話を焼いてくれる男性タブーと愛を交わし合うようになる・・・とまとめられるだろう。

が、まずキンシャサの状況に驚いた。25年前に行かなくてよかったとつくづく思った。現在でもこうだったら、25年前はもっと凄まじかっただろう。現代社会の体をなしていない。いたるところにごみが散乱し、治安も悪く、薄汚れた建物があり、病院もきちんと機能しているようには見えない。治療費がないと重症でも放置される状況らしい。そのようなコンゴ社会を実にリアルに描いている。

 決してわかりやすいリアリズムの映画ではない。よくあるタイプのアフリカの貧困を訴える映画でもない。まるで地獄のような社会で、他者に救いを求めることなく一人で生きていけると考えていた人間が、子どもの入院のために、なりふり構わず戦いを挑み、それに敗れ、それまでの生き方を変えざるを得なくなり、絶望し、自殺を考え、ついには、他者の救いを求め、神の救いを求める。そして、柔和になって、苦しむ人同士で肩を寄せ合って生きていくことを選ぶ。そのように生きていくのが人間社会のあり方なのだというメッセージが込められている。私はそう思った。

 二つの音楽が映画の中で大きな意味を持つ。一つは、フェリシテが歌うバーで演奏されるエネルギッシュで猥雑な雰囲気のアフリカ音楽(カサイ・オールスターズという有名なグループによるらしい)。もう一つはストーリーとは何も関係なしに場面が挿入されるオーケストラと合唱によるミサっぽい曲(アルヴォ・ペルト作曲らしい!)。キンシャサのアマチュア・オーケストラが演奏する(正直言って、かなり下手なオケ)。下層の人々が酔っ払って聴く音楽と、内省的で宗教的なオーケストラの音楽。それが重なり合うかのように響く。最も俗なるものの中に、人間の生命という聖なるものがある・・・そのように私は感じた。

 とても良い映画だった。文明人のある種の憧れをアフリカを舞台にして描いたようなアフリカ映画ではなく、真実のアフリカを描いた映画だった。もっとこんな映画をみたい。

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コメント

新聞紙上でこの映画のことは知っていましたが、こんなに良い映画だとは思っていませんでした。観てみようと思います。ご紹介ありがとうございます。私は一度だけアフリカに行ったことがあります。もう40年位前ですが、マラウイという国に行きました。その時はアフリカという所は良い所だなと思いました。青春の思い出です。それ以来、アフリカにはもう一度行ってみたいと思っていますが、実現できないでいます。

投稿: Eno | 2017年12月21日 (木) 05時53分

Eno 様
コメント、ありがとうございます。
ブログを時々拝見しております。「わたしは、幸福」につきましても、ご感想を読ませていただけるのを楽しみにしております。私はとても良い映画だと思ったのですが、いかがでしょうか。
アフリカに行かれたことがあるんですね! マラウイはフランス語圏のコンゴとはかなり異なるかもしれませんが、重なるところも多いことでしょう。
Eno 様のブログを読ませていただくと、私と好みが重なりながら、かなり異なるところをとてもおもしろく思っております。

投稿: 樋口裕一 | 2017年12月22日 (金) 11時29分

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